TEST RIDE

[試乗記]

ワイルドな雰囲気が残っている最後の世代

1992 シボレーカマロ (CHEVROLET CAMARO) vol.1

この個体は「夢のようなサードカマロ」だった

このサードは、エイブルが、自社のコンセプトに基づいて製作した1台。何か高価な特殊パーツを装着したわけでもなく、当たり前のように整備していたということだが、そこにはショップなりのこれまで培ってきた膨大なノウハウが注ぎ込まれていたのである。

更新日:2016.01.12

文/椙内洋輔 写真/古閑章郎

取材協力/エイブル TEL 044-857-1836 [ホームページ] [詳細情報]

夢のようなコンディションだった

 走り出した瞬間から感じる明確な違い。すべてにおいてスムーズ。記憶にある当時のサードと比較しても、これほどの上ダマに出会った経験はまったくない。もちろん普通に走りはしたし、その当時もそれなりに楽しい思いもたくさんできたのだが。だがしかし…。

 92年カマロZ28D車。エイブルがリニューアルをかけ、緻密な整備&交換を終えたこのサードには、旧車にありがちなドタバタとした衝撃がまったくなく、極めてスムーズに走る。

 ステアリングを左右に切ると自分で意図した動きがそのままステアリングに伝わり、そして反応が鋭い。ステアリング中央にあるデッドな領域が圧倒的に少ないのも嬉しい。それでいて乗り心地はかなり良く、路面からの当たりはきわめて優しい。ブレーキも、タッチは硬いがいたって普通に効くし、安心して踏み込める。

 ATもショックレスで心地よく変速し、低速からの巨大なトルクを路面に伝え、当時のアメ車の醍醐味である低速型のエンジンであるがゆえに最近のアメ車にすっかり慣れた身には、驚きすら感じる力強さに感動しつつ、都心国道246をひた走る。

 この年代のカマロともなると、「力強い」という印象はあれど、パワー数値的には圧倒的に「速い」ということあり得ない。だからこそ重要となるのは、「パワー」というよりは全体の心地良い「フィーリング」であり、クルマのコンディションを生かすことが最大のテーマとなるのだろう。

 それにしても60キロ程度で走っているのに圧倒的に気持ちがいい。さすがは90年代のアメ車。5.7リッターV8は、決してパワフルではないが、濃密なフィーリングを伴ってドライバーを楽しませてくれる。

 ボディ外装は、フロントバンパーを新品にしたことで全体の印象も引き締まったようで、それ以外の部分にも粗さが感じないのは23年前の車両としては驚きだ。

92年型のカマロZ28。ヤナセもののディーラー車となる。ホイールとマフラーが社外品となり、車高がローダウンサスによって若干落ちているが、それ以外はノーマル状態を維持している。

筆者的に一番好きなポイントがこのリアテール。非常に印象的。好みとしては、ホイールを純正ノーマルに戻したいが、新オーナーさんは今後いかに?

フロントバンパーを新品に交換したということで、まだナンバー装着用のネジ穴すら開いていない状態だった。

ショップが注いだ愛情が感じられるコンディション

 足回りは、各部分解整備によりショックを新品にし、その他アイドラアーム、ボールジョイント、センターリンク、タイロッドエンド、コントロールアームブッシュ、エンドリンクブッシュ等をリフレッシュし各部のガタをなくし、その他に補強&強化をすることで、23年車とは思えないハンドリングと乗り味を提供してくれるのである。

 ちなみに、サスはアイバッハのローダウンサスを使用しているが、タイヤは50偏平の16インチで路面からの当たりを軽減しているのはさすがである。過度な装飾品を与えたりドーピングをして老体にむち打つよりもずっと理にかなっているし、長期にわたり気持ちよく付き合える可能性が高まるのであろう。

 一方、インテリアには外装を越えるさらなるインパクトがあった。たしかにシートにはこれまでの車歴を感じさせる部分があったのは事実だが、それ以外のメーター類やダッシュパネル等にひび割れや汚れ等が一切なく、また中古車然としたすえた印象および臭い等がまったくなく、そこに人工的な作業の形跡を感じることがないのが、なんとも素晴らしい。

 このサード、もちろんこの状態でずっと生きてきたわけではないだろう。整備やパーツ交換で生きながらえてきたという事実は当然あるにせよ、この個体に感じる中古車としての素性の良さは素人でもわかるはずだし、ショップ自体が注いできた車両への愛情をも感じさせるのである。二時間程度の試乗取材だったが、まるで夢のようなサードカマロ体験だった。

 1982年から1992年まで生産された通称サードカマロ。最終年式の92年型でさえすでに23年モノとなるだけに、おいそれとオススメする気にはならないものの、旧車といわれる存在と、比較的新しいクルマとのちょうど中間に位置する存在として、「ヒストリックカーが欲しいが、ヒストリックカーほどの手間はかけられない」という方には絶好の1台となるのかもしれない。

各部の調整と整備を終えたエンジンルーム。非常に綺麗なエンジンルームだった。タワーバーにて補強をしているのもエイブル流。

オルタネーターを新品に交換。このオルタネーターは、エイブルオリジナルの国産流用パーツ。性能や能力自体のお墨付きもあり、効果てきめんのパーツである。

もちろん、油脂類やベルト類のチェックや交換も欠かさない。エンジンルームの状態が、このサードのコンディションを物語っている。

手を入れる必要性が明確にある年代

 というのも、手に入れる最初の段階で多少の手間が必要になるが、そこを越えればいたって普通に真夏のド渋滞を余裕で走り切れるし、速くはないが気持ち良いV8サウンドを轟かせ、アメ車濃度の高いドライブが可能となるからである。

 この部分に関してが、60~70年代のアメ車との違いであり、サードならコンディションを整えれば、まるでその当時の国産車のように何事もなく走れてしまうのである(あくまでその当時の国産車程度であって、最新の国産車のようにはいかないのは当たり前の話だ)。

 とはいえ、最初に段階で必要となる手間であるが、そこを越えるのに、どこのショップでもいいというわけにはいかないのが嘆かわしいところ。何度も言うが、ヒストリックカーに片足を踏み入れたクルマである。

 というわけで、適切な車両チェックとノウハウが必要になるからこそ、カマロを知らないショップで購入するのは危険極まりない。同時に、何でもかんでも強化品を入れようというショップも危険である。

 前者に関して言えば言わずもがな、後者に関して言えば、サードカマロに何でもかんでも強化品を謳うショップに限ってサードの本質を知らない方が多いという筆者の実体験によるものである。弱点を補うことと単なる強化は一致しないからである。

 サードカマロともなると、中古車で手に入れようとすれば、少なくとも何かしら手を入れなければならない年式であることは自明の理。

 とはいえ、素の状態を知らずして強化品で埋め合わせをしても、その強化品自体の性能が生かされることはまずないのである。各部のパーツがパーツとしての性能を発揮させるためにも、まずはサードのコンディションを出来る限り上げることが必要となるのである。

中古車を手に入れることで一番気になるのが、インテリアの状態である。20年以上も前の車両ともなればなおさらだろう。だが、このサードは、たしかにシートには長年の使用による劣化が感じられたのだが、それも許容範囲のうちだし、とにかくダッシュ等が抜群に程度が良好なのが嬉しい。

ATシフトの周辺もご覧のようにコンディションを保っている。正直、このクルマが現役だった時代ですら、こんな状態のサードは珍しいと言っても過言ではないだろう。

本来ならダッシュのひび割れ、汚れ、カスタマイズ等により、インテリアの印象は最悪となるのだが、このサードにはそういった負の部分が皆無だったのが一番の驚きだった。ちなみに、ニコイチ、サンコイチにしたところで、ちぐはぐさが出るものだが、そういった印象もまったくない。まさに奇跡の1台と言っていいだろう。

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>> 1992 シボレーカマロ (CHEVROLET CAMARO) vol.2 を見る

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