アメ車のハイブリッドと聞くと、アメ車の「魅力」と逆行しているのではないか? そんな風に考えていた時期も正直あったが、時代が変わりこれだけ環境性能について語られるようになれば(あと燃費向上に感心を持つと)、さすがに耳を傾けずにはいられない……。そんな考えを持ち始めていたころに出会ったのがキャデラック エスカレード ハイブリッド。
ただ、さすがにその当時(09年あたり)は日本でエスカレードのハイブリッドを買うなんて方はいなかったように思うから、取材したくてもできないという現実があり、次第に忘れてしまっていた。
だが前回クワッドドライブがテスト車として導入しているハイブリッドの取材をさせてもらい、再びに興味に火がついた。ということで今回、無理を言って試乗させてもらったのである。
最大の興味はたったひとつ。ドライブフィールである。
アメ車の醍醐味は大排気量&大パワー&大トルクであり、だからこそ燃費悪でガソリン代がかかろうが、みなさんあえてアメ車に乗っているわけで。仮にハイブリッドになったことで、そういった醍醐味が減少していたら乗る意味もなくなってしまうかもしれない…。だからこそハイブリッドのフィーリングを確認したかった。
まず最初にクワッドの林氏に運転してもらい、帰りに筆者が運転するというカタチをとって街中中心の試乗を行った(最初は助手席で確認)。
いざ出発である。エンジン始動から独特であり、いわゆる始動時の爆音がまったくない。だが助手席からの雰囲気は紛れもないエスカレードである。
走り出してもエンジン音はまだまだぜんぜん聞こえず、しばらくは「キーン」という(おそらくモーター音)微かなサウンドが聞こえるのみ。ただ、タコメーター読みで1000rpmを越えるとエンジンが始動するようになっており、超低速から1000rpmまでがモーター作動で、1000rpmを越えるとV8の半分のV4エンジンが作動する仕組みとなっている。
正直、助手席からだとエンジンの微妙な変化を感じとることは難しく(逆に言うとハイブリッドの制御が巧みであるということなのだが)、レポーターとしては少々恥ずかしいのだが驚くばかりの体験であった。
少なくとも助手席においては、言われなければ「ハイブリッド」と気付かないかもしれない、それほどの完成度。「アメ車なのでもう少し雑というか甘い部分があるんじゃないか?」という事前の予測は、助手席レベルにおいて、早々に打ち砕かれたのである(余談だが、このハイブリッドシステムは当時GM、BMW、ダイムラークライスラーの3社が共同開発したもの)。
街中の交通リズムに合わせた運転なので、前が詰まっていれば基本的にはモーターでの走行。少し進んで勢いが増せばV4となり(その後スピードが増せばV8になる、その繰り返し)、その変化は非常にスムーズ。実際の街中走行では、V4とモーターとの狭間を行き来することが多く、頻繁に制御が行われていたが、その動きは至極スムーズであり、そこに安っぽさや曖昧さは微塵もない。「もし仮に、ハイブリッドと知らされずに乗せられたら、気付かないかもしれない」。やはりそんな印象を抱かせるほど、制御の完成度は高く、高級車の名に恥じないフィーリングであった。
このクルマに何か違いを感じるとしたら、いわゆるアメリカンV8のサウンドが、タコメーター読みで約2000rpmを越えないと聞こえないことと、回生ブレーキによるブレーキペダルの踏みしろの違いだけである(効きが悪いということではない)。エンジンサウンドに関していえば、昔流行ったトヨタセルシオのように高級車=静かということになれば、エスカレードハイブリッドは超高級車ということになる(笑)。
このエスカレードハイブリッドには、6リッターV8エンジンが搭載され、332hp、最大トルク50.8kg-mを発生させるが、これは同時にノーマルのエスカレードに搭載される6.2リッターV8エンジンよりも若干のパワーダウンを伴うものになる。だが、実際に乗るとモーターでの走行時からエンジンに切り替えられる制御が巧みで、かつ4速ATのレシオを変えることで、力不足をまったく感じさせず、少なくとも低速での扱いはノーマルV8パワーにまったく引けを取らないし、十分に速い。
聞けばこの仕様で平均燃費が8キロちょいを越えると言い、ノーマルのエスカレードが5キロ弱ということから推察すると、個人的評価としては上々ではないかと思う(もちろんハイブリッドだからといって、高速走行やアクセルをガンガン踏んで走れば燃費は悪くなるという)。しかもモーター等のパーツを余計に搭載し、3トン近いボディ重量を考えれば、ハイブリッドとしての目的は十分に達成しているように思えるが、果たしてどうだろう?
クワッドドライブのハイブリッドは、足回り等に若干手が加えられている。サスペンションは基本的にノーマルであるが、24インチホイールに強化スエーバーでロールを抑えるようセッティングされ、同時にブレンボの6ポッドブレーキにカスタマイズされている(詳細は前回紹介)。
このセッティングでの乗り味は、引き締まった硬質なフィーリングをもたらしてくれる一方で、品質の高い国産タイヤを装着することで、路面の凹凸に対するいなしが良く、乗り心地の悪化をもたらすことなく、エスカレードらしい品質感あふれるビジュアルを構築している。ハイブリッドと言えどパワートレイン以外は、最新SUVの定石に則った仕上げを施しているのである。
エスカレードハイブリッドに関する一般的な評価は二極化しているという。ひとつは往年のアメ車ファンによる拒絶。対して国産ハイブリッド等に触れる機会もあり、アイフォーン等による最新モデルを積極的に取り入れる方々が抱く興味。どちらの反応も分からないではないが、個人的には後者に近く、乗ると分かるが非常にハイテクなマシンに乗っている感じがたまらなく良いと思っている。
冒頭に書いたハイブリッドはアメ車として「魅力」に逆行しているのか? ということだが、これに関しても「ノー」と断言できる。もちろんモーターが駆動する部分においては賛否両論あるだろうが、その部分を超えてしまうと(1000rpm)紛れもないアメリカンV8であり、エスカレードであることに疑いはない。モーターからエンジンに変わる時にV4となるが、それは気筒休止システムを採用しているエンジンにおいては、今や当たり前のことだし。だからこそ、ハイテク搭載のアメ車と考えれば逆行どころか、最先端マシンとして十分に評価できるだろう。
あとはこのまま乗り続けることで、モーターや電池のトラブルの有無やそれら以外の事象を実際に体験することでデータを蓄積し、エスカレードハイブリッドに対する評価が次第に決まってくると思われる。今回の試乗においては、ハイテク感溢れるマシンとして非常に面白い&興味深い存在として、高評価したいと考えている。
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