コルベットの中で一番好きな型はC3である。「アメリカ イズ No.1」の象徴。パワー感を見事デザインとして表現したマッチョなスタイルこそアメリカ的オリジナリティだと思うからである。
だが残念なことにこれまで、常にアメ車に触れる仕事をしているにもかかわらず、C3とはまったく縁がなかったのである。
その昔取材した一台は、エンジンもかからないボロボロのパーツ取り車のような風情だったし(店が最低だった)、その次に出会ったブツは走るには走ったが、あまりにハードチューンだったためか、扱いづらさナンバーワンみたいな車両で何度もストールして取材どころではなかったし、最後に出会ったC3は、まるで何のクルマかわらかないほど激しいエアロを装備して、コルベットとは呼べないようなクルマに様変わりしていたし etc。
それ以来、C3に対する幻滅感がひどく、取材車両としてピックアップすることはまったくなくなった(意図的に外したのであった)。
ところが、昨年取材した69カマロを所有するエイブルの原氏が72年型アイアンC3を手に入れたということで興味を持ち、「取材させてください」と話が進み(現在整備に取り掛かっている)段取り途中なのだが、その最中に、別途手に入れられた81年型C3の納車が近いということで、手始めにそちらに乗せてもらったという経緯である。
エイブルは何度も取材しているので知っているのだが、ショップのコンセプトに賛同する部分が多い。いわゆるちょっと古めのアメ車をピカピカにレストアして高価にて売るショップではなく、そのクルマの現状を生かしつつ手に入れやすい適価にて販売するショップであり(もちろんモノや状況によって異なる部分はるが)、そのクルマのコンディションを明確に伝える(ダメなとこイイとこ両方)とともに、なるべく元のカタチ(純正に近いカタチ)で販売することを好むショップである。
だからこそ、何か予期せぬトラブルがあった場合でも、純正に近いからこそ元に戻しやすく、順を追って探れば原因追求がしやすく、純正に近いからこそ逆に余計な手が入っていないぶん余計なトラブルが起こる可能性が少ないというわけである。
そういうこともあって、エイブルの車両は年代モノであっても走りに関してはシャキッとしているものが非常に多く(恐らくそういうモノを見極めて仕入れているのだろう)、だからこそ乗りやすく取材しやすいショップなのである。
コルベットは時代を追うごとに様々なデザインテイストを経て現代に至っている。C1、C2、C4、C5、C6、C7は、デザインはそれぞれ異なるが、ある意味では欧州車的なスポーツカーデザインを目指したものだ(前後オーバーハングをどんどん切り詰めて性能重視のスポーツカーに成長している)。
だがC3だけは、まったく異なるフォルムである(と思っている)。ある熱狂的なファンは「ザ・アメリカ」を象徴しているデザインという。大きく膨らんだフェンダーにロングノーズ&ショートデッキのフォルムなのだが、あまりにも長いフロントオーバーハングを見た当時のヨーロピアンは、「あれじゃスポーツカーとは呼べない」とほくそ笑んでいたというのだが…。
一方本国では、コークボトルラインと称されるメリハリのあるデザインは、歴代モデルの中でも最もグラマラスなスタイルを持っていると言われおり、当初はコルベット・スティングレイの愛称で親しまれていたのである。
C3コルベットは、68年にデビューし82年まで生産された歴代コルベットの中でももっとも長い15年という生産期間となり、5年という短命に終わったC2時代と比べれば「パワー」で頂点を極めた時代とも言えるだろう。500hpを上回るエンジンパワーのポテンシャルを最大限引き出すマッチョなデザイン。空力にも優れたC3は、コルベットの歴史においても「絶頂期」だったのである。
しかし、70年代を境いに大気浄化法改正(マスキー法)によって排ガス規制が一気に強化され、対処法的なエンジンのディチューンがはじまり、中にはトップエンジンの廃止も行われ、一気に牙が抜かれ始めていった。一方デザインにおいても変化が生じ始める。衝突基準の改正によってクロームバンパーの廃止やオープンボディたるコンバーチブルも消滅するのである。
C3の時代は、力で栄華を極めたアメリカンパワーに満ちたエンジンとデザインで幕開けし、オイルショックの最中で苦悩しつつ、新たな魅力を模索し続けた15年間と言っていいだろう。
取材した車両は、81年型C3。350エンジンを搭載し、3速ATで駆動するオリジナルに近いモデルである。すでにオーナーが決まっており納車前に許可をもらって試乗した次第である。今回試乗前に行われた納車整備+消耗品交換は以下のとおり。
<主な交換パーツ>
オルタネーター交換
ウオーターポンプ交換
エンドリンクブッシュ交換
リーフのブッシュ交換
エアクリーナー交換
プラグ交換
プラグコード交換
ブレーキホース交換
タイヤ新品
三元触媒に交換
ブレーキキャリパーはオーバーホール
その他油脂類交換 etc
この取材後、装着されているエックラーエアロのフロント部分のみを取外して納車されるという。
もう10年ぶりくらいになるだろうか、というくらい久しぶりのC3である。もちろん「C3だったらアイアンだろ」というようなマニアな方もいらっしゃるのは重々承知の上だが、個人的には81年型でも今となっては十分カッコイイと思う。
しかも、シートに座った時の着座位置とステアリングやセンターコンソールの位置具合が絶妙な関係になっており、ドライバーズシートから見えるフェンダーの峰は歴代コルベット随一の豊満な膨らみ具合を示している。かつ、ボディの大きさが意外にも小さいことが今となって発見でき、その割にはサイドミラーが小さすぎて自車のリアフェンダーしか見えず(さすがコルベット笑)まったく役に立たないことも同時にわかり、アテにできるのはバックミラーだけという状態でいざスタートとなった。
驚いたことに、エンジンは一発始動。しかもまったくぐずることなく、自宅にある国産車よりもよっぽど素早い始動が気に入った。ちなみにその後撮影のために何度か始動と停止を繰り返したが、不安定な気配はまったくなく、その後は81年車ということを忘れてしまうほど気楽な撮影となった。
走り出してもその印象はまったく変わらなかった。旧車にありがちなステアリングの空白部分、いわゆるデッドな部分(何も反応しないゆらゆらな部分といえば分かりやすいか)が通常中心から左右に30度くらいずつの角度であるのだが、このC3はそれが左右15度くらいの角度内で収まっており、だからこそ走っていて怖さがまったくない。特にアメ車の旧車の場合、このステアリングの反応がスカスカに感じるデッドな部分が大きく、「それが嫌」という方が非常に多いのだ(慣れの部分もあるが)。
恐らく納車整備で足回りのブッシュ類を交換していることと、装着しているコニクラシックのショックによるものだろうと思われるが、すでに34年前の車両がこれだけ安定して走るのだから十分なレベルといっても過言ではないだろう。加えてタイヤが新品なこと、さらにブレーキに不安がまったくないので、意外にも小さく感じるボディと相まって、街中レベルから国道246に至るまで非常に楽しく走れたのであった。
同時に、搭載されている3速ATのコンディションがまた格別に調子よく、200hpに満たないノーマルパワーだったといはいえ、滑ることなく路面に伝えるから、各部の運転動作に慣れてしまえば乗っていて不安を感じるところがサイドミラー程度しかないのである(笑)。
しかも日頃乗っている最新のアメ車からは感じられない濃厚なキャブレターV8フィール。これだけ毎日のようにアメ車に乗っていながら初めて「パワーよりもフィールが大事」と真剣に思えた瞬間でもあった。まさにダイレクトに感じるV8サウンドに「これだ」というアナログ的快感が得られたのである。
試乗後、なかなか興奮が冷めない「こんな状態って初めてだわ」と自身に驚くとともに、これこそがコルベットだし、こんなカッコ良く楽しいマシンがまだ街中を普通に走れることに素直に感動するとともに、「過去取材したC3たちはいったい何だったのか?」という思いでいっぱいになった。
エイブルは、こういうクルマたちを単に「古い」といって残骸にしてしまうのではなく、リニューアルやリフレッシュさせて新たに命を吹き込む作業を適価にて行っている。
もちろん、適価であるからすべて完璧という状態ではないのだが、機関重視というショップコンセプト通りこれだけ普通に走ってくれるのならば、仮に飛び石のキズ痕やダッシュボードにひび割れがあったとしても、そんなのどうでもいいと思えるから不思議である。
330,000円
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