TEST RIDE

[試乗記]

『強さと軽さと力強さ』を兼ね備えた究極のスポーツカー by HPP

2011 シボレーコルベット Z06

C8登場でも決して色あせないFRの走りの魅力

ミッドシップのコルベットに話題が集中しているが、ちょっと待って欲しい。ミッドの半額程度で購入できるFRのコルベットがまだまだあるのだから!

更新日:2019.08.22

文/石山英次 写真/古閑章郎

取材協力/HPP  TEL  [ホームページ]

FRこそ、今買うべきコルベット

 先日、ミッドシップのコルベットC8が発表された。当初は、あまり興味のなかった筆者だが、発表後の写真や動画を見ると「結構、カッコイイ」とは思う。それに編集部内でも話題で、「めちゃめちゃカッコイイ」を連発する者もいれば、貯金ゼロを嘆く者までいたくらい(アホか、仮に貯金あっても君には買えん、笑)。

 だが、筆者はちょっと待て、と言いたい。C8は確かに魅力的ではあるが、D車で登場すれば少なくとも800万円から1000万円クラス。これでも当初の想定よりはかなり安いとは思うが…。

 いずれにしても、一般サラリーマンにはちょっとやそっとで手が出せる車両ではない、ということに間違いないし、であれば、その半額でも楽しめるコルベットは存在する! と声を大にして言いたい。

 そう、FRのコルベットである。「FR最速」と言われたコルベットこそ、今買うべきコルベットじゃないか、と個人的には思うわけである。

 で、そうなれば当然直近のC7に目が行くはずであるが、筆者的なオススメはC6。断然Z06がいい。

Z06とは6代目コルベットのトップモデル。ノーマルクーペとは異なり、ボディ剛性やサスペンション、さらにはエンジンと、すべてにおいてスペシャルな存在だった。

この車両は2011年型Z06の中古車、走行4万キロ弱を入手し、チューニングを開始。現状、車高や足回りはノーマル状態であり、今後、仕上げていく段階で手を加えていく予定。

この前後オーバーハングの短さ。そしてフロントボンネットフードの低さ。こうしたプロポーションがもたらす走りはミッドに引けを取らない。

速いだけじゃなく、気持ちいい。なんせ特別なエンジンをMTで操っているのだから。

断然速い、C6Z06

 それは一体なぜか。C6Z06は、単純に同じNAであればC7よりも速いからである。

 「ならわかった。でもC6なら『ZR1の方が速いだろ』」という方もいらっしゃるとは思うが、C6のZR1を買うなら、いっそのことC7のZ06へ行ってしまった方がいい。なぜなら、C6ZR1の価格帯はC7のZ06に迫るからである。それなら、C7Z06の方がいいに決まっている。気楽に乗れて速い8速ATもあるし。

 だが、C6Z06とC7ノーマルクーペ、もしくはグランドスポーツを比較すれば、C6Z06にも勝機があり、しかも唯我独尊の7リッターV8エンジンを搭載しているし、仮にライトチューンを施せば、明らかにC7を超える。ボディの剛性だってC6Z06は完全なるクーペであるが、C7はタルガボディ。その分だけでも大きな違いである。

 であるならば、Z06で腕を磨きつつオリジナルな存在に仕上げるのも決して悪くはないはず、と思うのだ。ちなみにC7に良いところがあるとすれば、それは8速ATくらいか(笑)

 ということで、C6Z06のライトチューン車両に試乗させてもらい、その速さを体感した。

 車両は、2011年型のZ06。中古で今年購入した時点での走行距離は4.5万キロ弱。それを500万円台前半で入手した。

搭載されるエンジンは7リッターV8OHVの自然吸気で505hpを発生させる。そこにオイル交換、インテークキット装着、水温対策、PCMチューニングといったライトチューニングを施し、明確な進化と扱い易さを生じさせたのである。

aFe POWERのコールドエアインテークシステムを使用している。他メーカーのパーツが多数ある中、導風板付きであること、そしてスロットルボディまでのパイプ形状や太さ、そういった諸々の条件を鑑みた上でのパーツチョイスとなった。

点火系にはBrisk Racing製のレーシングプラグとテイラー製のプラグコードを装着し、PCMにはHPPオリジナルデータを使用することで、大排気量エンジンを高回転まで存分に楽しめるように進化した。今後は、PCMの現車セッティングを施し本格的なパワーアップを求める。

中古車とはいえ、シッカリ手を入れてやれば十分に生き返る。この車両はまず油脂類を全交換しただけでも変わったという。

ボディの強さと軽さとエンジンの力強さを兼ね備えた本物

 ちなみにZ06とは、2005年に登場したC6時代のトップモデル。当時のルマンでクラス優勝したC6-R譲りのレーシングテクノロジーが注入されたGM渾身の力作といわれている存在。

 搭載されるLS7と呼ばれるエンジンは、珠玉の7リッターV8OHVのNAで505hp、最大トルク470lb-ftを発生させる。ギアは6速MTのみとなっており、同時にボディにも手が入り、徹底的な軽量化の追求によって車重が1500kgを切っている(これが非常に大きい)。

 その一方で、ルーフを固定したクーペボディとすることで剛性アップを図る等して、『ボディの強さと軽さとエンジンの力強さ』を兼ね備えた究極のミドルクラススポーツカーと言われているのである。

 そんなC6Z06を間近にみると、まずボディの美しさに惚れ惚れする。ぞれ以前の丸みを帯びたC5から、まるでぜい肉をそぎ落とした、アスリートのごとき鍛え上げられた風情を見せるZ06。さらに前後オーバーハングが切り詰められ、広げられたフェンダーとの前後左右のバランスに丸型リアテールの組み合わせがめちゃくちゃ美しい。

 すでに8年前の車両だが、いまだそれほど古さを感じさせないのが、コルベットならではの存在感なのだろう。

 さて試乗であるが、まずはこの車両がフルノーマル車ではない、ということを先に伝えておく。HPPの代表長池氏によりすでに各部に若干だが手が入っており、個人的には過去これまでに6度ほどC6Z06のメーカー広報車両や中古車に乗りリポートしてきたが、そのどれよりも速く、かつ洗練されていたのには驚いた。

長池氏が絶対的な信頼を置いているロイヤルパープルのハイグレードオイルを使用し、エンジン、ミッション、デフのオイル交換を実施。オイル交換するだけでも変化が生じるほど良質なオイル。

オリジナルの大径ブレーキを活かし、パッドとフルードのみ効きを重視したパーツに交換。ホイールは純正であり、それに組み合わされるタイヤはあえてストリートラジアルで純正サイズのHankook Tire・Ventus V12 evo2でガンガン走らせ情報収集を行っている。

ノーマルでは水温が高かったこともあり、ナンバープレートの位置をずらし移動させ、フロントグリルからの冷却のエアーが入り込むスペースを増やしている。リロケートキットを使わずにあえて直付けのナンバープレートには長池氏のコダワリが詰まっている。すなわち、「ナンバー位置よりも、冷却のための風通しの方が重要」という。

C4以降のコルベットで、リアスタイルが一番素敵だと、個人的に思っている。

「これなら本当にC7はいりませんね~」

 しかも、これまで乗ってきた中古車はどれも程度が抜群に良かったのだが、それでも今回の車両と比較するとどれもエンジンの吹き上がりが重かった。逆に、今回のZ06のエンジンはなぜこんなにも軽々吹け上がるのか。

 通常7リッターV8ともなると、若干の重さを感じさせるのが通常だろう。かつてのホンダインテグラタイプRじゃあるまいし。

 だが、このZ06のエンジンは、レーシングスペックの手組4気筒エンジンほどではないが、それでもこれまでの経験を大きく上回るほど軽々吹ける。

 聞けば、「まずエンジン、ミッション、デフを全てロイヤルパープルのオイルに交換をしています。そしてインテークを交換し、Brisk Racing製のレーシングプラグとテイラー製のプラグコードを装着、PCMのデータ変更を暫定で行っています。それと、もともと高い水温を抑えるためクーラントの調整やサーモスタットの交換を行い、ノーマルよりも水温を低く抑える変更を加えたくらいですかね」

 「あ、あとブレーキパッドを社外品に交換しているくらいで、それ以外は個人の好みで装着したパーツです。たとえばバケットシートやショートシフターなんかですね。でも、サスペンションは完全にノーマルですし、タイヤもノーマルのミシュランが年数が経過して劣化していたのでとりあえずでかなり安価なハンコックに替えましたが、サイズも純正のままですね」。要するにライトチューンレベルである。

 それでも、筆者にはまるで一回り以上小さいスポーツカーを運転しているような、そんな軽さを感じたし、何よりエンジンの吹けと粘りと密度の濃さが非常に独特であり、乗っていて非常に面白い存在であった。しかも「これなら本当にC7はいりませんね~」とつぶやいてしまうほど速かったし。

 「これでも、中間域のトルク感だけでいえば、以前乗っていたフルチューンの6.1Lチャレンジャーには敵いませんよ」という。マジですか!

 ただし、これは、Z06にはまだまだ煮詰める余地が残されているという意味でもあり、煮詰め上げたZ06が果たしてこの先どうなるのか? 今でさえこれだけの速さなのだから、きっと物凄いことになるのだろう。

スポーツカーらしいシンプルなコックピットに独自アレンジを加えている。左上に見えるメーターはトラスト製の追加メーター。OBDから情報を呼び出しているため、油温等数々の情報が閲覧可能になった。

購入後にミッションのオイル交換を行い、MGWのショートシフターにレーシングノブを加工して装着。当初は曖昧さがあった6速MTだが、これら処置の結果、驚くほど正確かつスピーディなシフトが可能になっている。

サーキット走行等の激しい横Gにも耐えうるようドライバーズシートのみブリット製のフルバケットシートに交換。あえて国産ブランドを使用するのも「ブランド名よりも性能重視」と長池流が貫かれる。

サーキットでのタイムアタックでも好タイム

 実際7月上旬に、マフラーを含めた排気系、サスペンション&ブレーキキャリパーがノーマルのこの状態で、筑波サーキットのタイムアタックで1分4秒台を記録している!(アメ車としては驚異的に速いタイム)

 この時のドライバー喜多條正樹氏は、チューニングカーのタイムアタックイベント『Attack』に出場するアマチュアレーサーであるから、そういった腕の立つドライバーの攻める走りにもシッカリ応えるほど、このZ06の素性は良いのである。

 個人的にも、フルノーマルではないとはいうものの、実際に乗ってみるとチューニングカーのような仰々しさや扱いづらさは微塵もなく、逆にバケットシートやショートシフターが装備されていなければ、「フルノーマルです」と言われても何ら疑いを持たぬほど自然だったし、仮にライトチューンでこの状態になるのなら、「みんなやるべきでは!」なんて思うほど、とにかく7リッターV8エンジンが刺激的だったのである。

 で、こういった走りの観点でのみC6Z06を見るのであれば、C7ほどの華やかなボディデザインやインテリアはないが、速さやハンドリング、さらにはいじる楽しさがあり、走り屋なんて言葉はもう死後だとは思うが、「走りのマシン」として仕上げていき、速いFRコルベットとして、そしてタイムアップを狙うマシンとして、最適な存在であると思うのである。

ライトチューンが施されているが、個人的にはフルバケットの乗降性が気になったものの、それ以外に扱いにくさが微塵もなかったことに驚いた。

歴代コルベットの中でもNAエンジンを搭載するFR最速マシンとして、純粋に走るためのマシンに仕上げるベースとして最高のコルベットと断言できるだろう。

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