TEST RIDE

[試乗記]

絶滅危惧種の90年代アメ車

1995 ビュイック ロードマスター

生き残ったウッディワゴンは絶品だった

90年代のアメ車、ビュイックロードマスターを取材した。

更新日:2023.11.07

文/石山英次 写真/古閑章郎

取材協力/エイブル TEL 044-857-1836 [ホームページ] [詳細情報]

街中を走るのが極めて楽しい

 例えば今、90年代のアメ車に興味を抱いている方がいるなら、その方はきっと相当なアメ車ツウ(好き)に違いない。でなければ、現代のアメ車に興味を持っているはずだし、もしくはもう乗っているかもしれない。

 現代のアメ車たちは、それはもう本当に良いクルマになっている。少なくとも機械的な心配がほとんどないから、ある意味国産車と同じ感覚で接することが可能である。

 だから、そんな時代に、あえて90年代のアメ車に興味を持っているということは、自ら苦難の道を選ぶということに他ならない(笑)

 90年代といえば、今から約33年前。当時のアメ車の代表格といえば、アストロでありカマロでありコルベットであった。もしくはサバーバンにタホにカプリスであった。

 が、その当時のアメ車業界には、「売れるアメ車には粗悪品」が横行し、過走行のメーターを巻き戻した車両や事故車や水没車が日本に上陸。多くのユーザーを悩ませた。

▲95年型ビュイックロードマスター。走行は約14万キロだが、驚くほどよく走る。

▲フロントの車高の低さが気になるが、それ以外の付属品を含めてノーマル状態であるのが最大のポイント。ヤレは確実にあるが、アジとも捉えられる。

 ちなみに、上記の粗悪品を持ち込んでいた方たちの多くはすでに死滅しているが、当然、当時のクルマたちも跡形もなく無くなっている。

 粗悪品はもちろんだが、まともなクルマたちでさえ過度なカスタムや改造によって潰されてしまったからである。

 だから、「今、当時のクルマが欲しい」と思ってもそう簡単な話ではない。まともな個体を探すのが困難なのだ。

 だが一方で、その当時の車両がもし今残っているとするならば、それはそれで理由があるはずだ、良い意味で。

 例えば、当時からめちゃくちゃ不人気で、大した改造も受けずに淡々と距離を重ねてきた、とかetc。

 今回取材した95年型ビュイックロードマスターは、もしかしたらそんな理由によって生き残ったクルマなのかもしれない。

 というのも、ローダウンされ、エンジンフード内ではエアクリーナーが社外品に交換され、インテリアではオーディオが社外品に交換されているが、それ以外はノーマル純正状態を維持しているから。

 個人的には奇跡的な車両だと思う。

▲ロードマスター特有のウッドパネルは、想像以上に状態はいい。もちろんヤレやキズ等はあるが、もっと酷いクルマを見たことがあるだけに、「全然いいよ」というのが個人的評価。

▲リアの曲線デザインは必見。非常に素敵なポイント。

▲ホイールもノーマルをキープしているのが素晴らしい。

 ボディにはウッドパネルが装着されているが、それも部分部分でヤレや劣化が見られるが、トータルで見れば(個人的な印象を加味すれば)良好な状態を維持していると言っていい。

 エンジンルームもクリーンな状態を維持しているし、インテリアには嫌な臭いや前オーナーのくせや痕跡がほとんどない。

 驚くことにダッシュボードのヒビ割れ等が皆無で色褪せのみであり(この部分は十中八九ヒビ割れするのだが)、これだけでもオススメの理由となる!

 だが走行距離は約14万キロ。だから、当然、そうしたヤレ(使用感&疲労感)は確実にある。が、少なくとも当時の粗悪品から感じた負のオーラは全くないから、かつローダウンのみで、いたずらにカスタマイズされていないから、現状でかなり気持ち良く走ることが可能である。

▲搭載されるエンジンは5.7リッターV8LT−1で260hpを発生させる。エアクリーナーが社外品にカスタムされているが、それ以外はノーマルで状態も非常にいい。

▲この時代のインテリアにしては非常にデザインが凝っている。兄弟車となるカプリスは驚くほどシンプルであった。状態も非常にいい。特にダッシュボードはひび割れ等が皆無であり、あえてカバーをかけて守っている意味が理解できる。

▲ドアパネルもご覧の通り豪華な作り。もちろん各種操作系は稼働する。

▲唯一の社外品はオーディオ。それ以外はノーマル状態を維持し状態も驚くほど良い。

 それにしてもロードマスターのデザインは素敵である。特にリアウインドー周りの曲線フォルムが美しい。もちろんウッドパネルにもヤラれるし、ウッドパネルとメッキのモール類とのコンビネーションが最高で、ひと目見てアメ車だとわかる雰囲気がたまらなくいい。

 乗っても、基本的にはふわっとした90年代特有の反応なのだが、この個体はステアリングの切れがいいから狭い道でも扱いやすいし、着座位置が適切だからか前方の視界が良くてこれまた扱いやすいし、対向車とのすれ違いにもさほど気にすることもない。

 ブレーキも思った以上に効きがいいから思い切ってアクセルを踏める。これまでこうした旧車をさまざま取材してきたが、走りに関しては相当なレベルを維持していると感じる。

 唯一不満があるとすれば(個人的な好みの部分で)、若干車高が低いかなとは思ったが、この部分に関してはいくらでも調整可能だろうから購入者が好きにすれば良いと思う。もちろん、低い車高が好みであれば、このまま乗れば良いだろうし。

▲ビュイックならではのムーンルーフもオシャレであり、開放感が得られる。

▲シートはレザーであり、ソファーのようにフカフカの、いわゆる往年のアメリカ車シート。3人乗車のベンチシートである。

▲セカンドシートの状態は想像以上に良い。3-3-2名の8人乗車を可能にする。

▲リアの荷室には後ろ向きの2名乗車用のシートが格納されている。

 それでも国道246で瞬間的に90キロくらいまで速度を上げてみたが、そこに至るまでの加速の過程が抜群に気持ち良いし楽しいし、これぞ90年代のアメ車の魅力だなぁ、と何度も頷いた。

 ちなみに、この車両には5.7リッターV8LT−1エンジンが搭載され260hpを発生させている。これは当時のC4コルベットのエンジンをディチューンしたもので、国内でも数が少ないレアなモデルと言われている。

 で、実際に乗ってみると十分な低速トルクを提供する「質」を感じさせるエンジンであり、だから40キロくらいから90キロくらいまでの力強さと加速感が絶品であり、最高に気持ち良い領域が低い速度域で味わえる。

 そういう意味では、大柄のアメ車ではあるが、その実、街中を走っている方が断然楽しかったりするのである。

▲リアドアを開ける場合は、まずはウインドーハッチを開けなければリアドアは開かない。

▲ウインドーハッチを開けると、リアドアのオープナーが裏側にありドアを開けることが可能になる。

▲リアドアは、横開きにも開く。さすがはワゴン大国(かつて)であったアメリカならでは。

 この車両を販売しているエイブルは、上記のような90年代やそれ以前の年代のまともなアメ車を、適切な整備によって蘇らせ現代の交通事情に適した走りを提供してくれるショップだが、そのエイブルをして「現状でも気持ち良く走りますよね」と言わしめるほど走りの状態は良い。

 そういう意味では、現代のアメ車が無くしてしまった「味」を持った個体であり、そうした味を魅力と感じるならば、是非とも一度実物を見てみて欲しい。

 もちろん年代ものの中古車なので疲労感はあって当たり前(特に外装)。だが、それを差し引いても「いいなぁ」と思わせるものがこのロードマスターにはあるだけに、その魅力を自分の目で見て直接判断して欲しいと思う。

▲走りは絶品。90年代のアメ車を代表するゆるっとした走りだが、ハンドルが切れるから大きさは気にならず、ブレーキも良く効くから安心してアクセルが踏める。

▲現代のアメ車が無くしてしまった90年代の味とも言える走りが可能なビュイックロードマスター。とはいえ、その走りは今の交通事情においても十分対応可能なレベル。だから好きな方にはたまらない魅力を放つ。

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