シェルビーGT350は、マスタングの歴史の中で初めて「アメリカ国内専用」の殻を破って世界戦略車へと生まれ変わるタイミングに合わせ、エンジニアたちがアメリカのプライドをかけて生み出した傑作中の傑作。
2010年代初頭、フォードは世界統一のクルマ作りを目指す大号令「ワン・フォード(One Ford)」戦略を掲げ、その象徴として、2014年後半誕生の2015年型(6代目)マスタングは、歴史上初めて世界中で販売するグローバル戦略車として開発されることになった。
それまでのマスタングは、アメリカの真っ直ぐで平坦な道を鷹揚に楽しむマッスルカーであった。が、しかし、ヨーロッパの狭く曲がりくねったカントリーロードや速度無制限の「アウトバーン」で欧州車と対等に渡り合うためには、根本的な大改革が必要だった。
そのためフォードは、50年間頑なに守り続けてきた伝統のリジッドアクスルを捨て去り、独立懸架サスペンションを全車に初採用するという、歴史的な大手術を敢行。その他ボディ剛性も大幅に向上させ、欧州の高級スポーツカー並みのしなやかで緻密な足回りを含めた土台が完成した。

▲2017年型の走行約2.8万キロ、ボディカラーはマグネティックグレーの個体。

▲ボディにレーシングストライプが入らないシップルな仕様であることもまたいい。
こうした世界戦略への大転換を背景に、フォードパフォーマンスのチーフエンジニアは、さらなる牙を研いでいた。
当時、マスタングはシボレーカマロやダッジチャレンジャーと、アメリカ国内で伝統的なパワーゲームを何十年も繰り返していた。しかし、チーフエンジニアの目はアメリカの枠を越え、はるかヨーロッパのサーキットを向いていた。
「マスタングは世界戦略車になった。カマロやチャレンジャーと国内で競っている場合か? 我々が今作るべきは、世界を代表するポルシェ911GT3やBMWM4 etc と、サーキットで競えるクルマじゃないのか」
アメ車=直線番長というレッテルをグローバル市場で完全に破壊する。そのためにチーフエンジニアが求めたのが、アメ車の常識を覆す究極の性能だった。その一つがフラットプレーンクランクのV8である。
だが。「こんなの、マスタングじゃない」。フォード上層部の役員会では猛反対。激しい怒号と反発が飛び交った。「なぜカマロのようにスーパーチャージャーを使わない? そっちの方が安くて馬力が出せるだろ!」。「世界戦略車だからこそアメ車の個性を大事にしろ。甲高いV8音はマスタングとは呼ばん!」
くわえて、技術的な壁にもぶち当たった。フラットプレーン構造は4.5リッターを超える大排気量で作ると、激しい振動等でエンジンが持たないというのが自動車業界の常識だった。いわんや5.2リッターという大排気量での開発など不可能だと。

▲搭載される5.2リッターV8NAエンジンは、526hp、最大トルク429lb-ftを発生させる。レブリミットが8250rpmの超高回転型パワーユニット。

▲手組みのエンジン。組み上げた担当者のネームが刻まれたプレートが貼られている。

▲フロントセクションの一部にカーボンパーツを使用し軽量化と高剛性を実現。

▲太いタワーバーがフロント部分の剛性感に寄与している。
だが開発チームは諦めなかった。クランクシャフトやピストンの軽量化を数ミリ、数グラム単位で突き詰め、試作エンジン「コードネーム:Voodoo(魔術)」をついに完成させる。
そしてある日、市販化の最終決定を下すための役員による試乗会が行われた。まだ反対派が大半を占めていた役員たちが、テストコースでのプロトタイプが駆け抜ける咆哮と姿を目の当たりにし、空気は一変。上層部曰く「カマロとの比較などどうでもいい。我々が今すべきことは、この最高のV8モーターを世に送り出すことだけだ!」
開発の最終段階でこだわったのは、やはり「音」だという。単にヨーロッパ車の真似をするのではなく、高回転まで突き抜けるレーシングサウンドの中に、アメリカの意地としての力強さを残す。エンジニアたちはマフラーの排気管の長さやタイコの構造を、ミリ単位で微調整。
そうして2015年、マスタング50年目のグローバル戦略という大きな翼を得て、宿敵カマロを置き去りにし、欧州の頂点を脅かす「公道を走れるレーシングカー」が産声を上げた。

▲純正のブラックホイールにブレンボブレーキが組み合わされる。

▲ステアリングの持ち手部分がスエードになるなど変化が加えられハード&レーシーな雰囲気のコックピット。

▲6速ミッションは、ストロークが短いスポーティなもの。低速走行時はクラッチの上下動のみで動かすことが可能なほどコントローラブル。
こうして生み出されたGT350のパフォーマンスは、世界中の自動車メディアとライバルたちを文字通り「震撼」させる。(その当時において)アメ車史上最強のNAパワーたる5.2リッターV8エンジンは、過給機なしで526馬力を発揮。レブリミットは8250rpmという、フェラーリやポルシェのGT3等でしかあり得なかった超高回転域に到達。
そしてボディ前半部分にカーボン素材を使用する等して、またスーパーチャージャー等を使用しなかったことで、前後重量配分は理想的な「54:46」を達成。車重は1700キロ台を実現。アメ車特有のフロントヘビーな感覚を完全に消し去り、ハンドルの切り始めから異次元の速度でクリッピングポイントへと吸い込まれる回頭性を手に入れた。
実際、自動車の聖地であるニュルブルクリンク(北コース)タイムアタックでは、当時のポルシェ911(991型)カレラSや、BMW M4クーペを上回る「7分32秒19」という驚異的な公式記録を叩き出した。この瞬間、アメ車は「直線しか走れない」と言われた時代が、完全に終わりを告げる。
・・・・。だが、そんな傑作誕生の奇跡は、そう長くは続かなった。

▲センターコンソールには油圧、油温メーターが配置されている。

▲8000rpmを超える高回転型のV8エンジンのタコメーター自体がレアである。

▲フォード自社製のシートであるが、フォールド性は非常に高い。
GT350は2015年末のデビューから、2020年までのわずか5年間という短期間で生産を終了せざるを得なくなった。それは世界中で牙を剥き始めた排ガス・騒音規制の網が、この破天荒な超高回転V8NAエンジンを完全に締め出し始めたからである。
また、職人が1基ずつ手組みで製作するこのエンジンは大量生産が不可能であり、フォードが電動化へと舵を切る中で、これ以上コストと手間をかけ続けることが不可能になったという切ない事実もあった=エンジニア達にとっては、最初で最期かつ期間限定の『夢』の実現だったのである。
そんな奇跡の産物であるシェルビーGT350は、生産終了から時間が経った今、本国での価値は下がるどころか、世界的なコレクターズアイテムとして天井知らずの高騰を見せている。
「5.2Lの大排気量」「過給機に頼らない純粋なV8NA」「8250rpmの咆哮」「6速マニュアルミッションのみ」という、アメ車好きが一度は乗りたい諸条件をすべて満たしたガソリン車の最高到達点としてアメリカ本国では争奪戦となっている。今後、これに類する車両が新車で登場することは100%ないと言う事実も輪をかけている。
そんなレアな個体をBUBU横浜で取材。2017年型の走行約2.8万キロ、ボディカラーはマグネティックグレーの個体である。これまでに計30台以上のシェルビーGT350を販売してきた実績を持つBUBU横浜ならではの良好な個体。
当然、そうした数を診てきたBUBU横浜の個体だからこそ、購入後のメンテナンス等の情報やノウハウが蓄えられているという点においても安心感が高い。何より、走行距離の少ない、使用感の少ないという奇跡的な個体だけに、今からこの傑作を味わうのに必要十分な要素が詰まっていると言えるだろう。
115,000円
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