今回ナインレコードがチューニングを行っているのは2010年型ダッジ・チャレンジャーSMS570。あのスティーブ・サリーンが創設したSMSのコンプリートカーである。
と、この事実を聞くと「SMSなら最初からスーパーチャージャーが装着されてるし、新車時の価格もSRT8より遥かに高かったし、話が違うじゃないか」と思う読者も多いだろう。実を言えば筆者も似た様な事を考えた。「なんでベース車両がSMSなんですか?」と。
SMS570のカタログスペックは最高出力500HP&最大トルク71.9kg-m。これは排気量が同じノーマルのR/Tの372HP&55.3kg-mはもちろん、同年式のSRT8や現行SRT8 392及びR/Tスキャットパックをも凌駕するスペックである。
また、SMS570の新車時の車両本体価格は、現在よりも円高だった2010〜2011年当時でさえ軽く800万円以上。そんな特殊なモデルをベースにチューニングするくらいなら、新車でSRTヘルキャットをオーダーする方が早いし、そもそも総額で考えればSRTヘルキャットよりも高くつくんじゃ…?と思ったのである。
で、ナインレコード代表の長谷川氏に正直にこの疑問をぶつけたところ、返ってきたのは「SMS570をベースにしたのはオーナーさんの希望なんです。実はこの車両は弊社が新車で並行輸入したもので、オーナーさんは新車からずっと乗り続けていて非常に愛着があるんです」との答え。
さらには「単純に現代のHEMIエンジンをパワーアップするのであれば、弊社でも普通は6.1リッターか6.4リッターのSRT8をお勧めします。その方が手間も時間もコストも有利ですから。同じSMSでも、6.4リッターの570Xであれば少し話は変ってくるんですけどね」と説明してくれた。
このSMS570をナインレコードがノーマル状態でパワーチェックした際の計測結果は、最高出力404.6HP&最大トルク52.3kg-m。この数字は同社が吸排気系の交換&ECUのリセッティングという内容のライトチューンを施したSRT8 392の最高出力407.1HP&最大トルク55.9kg-mという数値に劣る。排気量が違うとはいえ、過給器付のSMS570の実パワーはNAのSRT8 392に及ばないのである。この事実を知れば長谷川氏の言う「普通ならSRT8をお勧めします」という説明にも納得だろう。
ちなみに同社が車両のパワーを計測する際には『DIM-TECH社製DYNORACE(ダイナレース)』という常時4輪をシンクロ回転させるローラー式のシャシーダイナモメーターを使用するのだが、この機械でパワー計測を行った場合、ノーマル状態であれば、メーカーや車種に関わらず、ほとんどの車両がカタログスペックから約2割ダウンの最高出力が計測されるとのことで、それを考えればSMS570のスペックはほぼカタログ通りとも言える。
さて、いよいよ何をどうやって1000馬力を目指すか?の解説であるが、その前にまたさらに補足を少々。
先にナインレコードの長谷川氏が「ベース車両はSRT8がお勧め」と言った事にはもちろん明確な理由がある。いわく「同じ『HEMI』という名称を用いてはいても、5.7リッターと6.1及び6.4リッターのHEMIでは中身が違います。6.1及び6.4のHEMIは、単純に5.7のボアやストロークをアップして排気量を増やしただけのエンジンではないのです」とのことで、具体的にはシリンダーブロック、クランクシャフト、コンロッド、ピストンといった腰下の重要パーツの強度が5.7と6.1及び6.4では異なっているそうなのである。
このエンジン内部のパーツの強度の違いが何を意味するかというと、スパーチャージャーなどの過給器を使って大幅にパワーを上げた場合、5.7のHEMIでは増大したパワーに前記したパーツが耐え切れなくなってエンジンが壊れてしまう危険がある事を示唆している。
もちろん5.7のHEMIでも大掛かりなチューニングを行うことは出来るが、その場合にはコンロッドやピストンといったパーツを6.1や6.4のユニットから流用したり、ワンオフ制作したりする必要が出てくるので、それなら最初から強度に余裕のあるSRTをベースにした方が手間もコストもかからないという事になるわけだ。
>>ダッジ・チャレンジャー SMS570 スーパーチャージャー改 vol.1
>>ダッジ・チャレンジャー SMS570 スーパーチャージャー改 vol.3
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