更新日:2012.02.08
文/石山英次(ishiyama eiji) 写真/石山英次(ishiyama eiji)
取材協力/ジャパンレーストラックトレンズ TEL 03-5661-3836 [ホームページ]
1999年に本国デビューを果たしたクライスラーPTクルーザーは、当初2.4リッター直4エンジンを搭載したユーティリティコンパクトハッチバックとして人気を博した。その翌年には日本導入が決まり、その際には2リッター直4エンジンを搭載し、レトロなスタイリングと機能的なパッケージにより、累計1万台を突破するほどのクリーンヒットを放ったのだ。
人気のポイントは見ての通り、ユニークなデザインにある。レトロはレトロでもニュービートルやニューミニとは違い、特定のデザインベース(原型)があるわけではなく「あの時代って、こうだったよね」的な記憶を直撃したところが何より凄い。そしてそれによって全世界で100万人を越えるオーナーが誕生したといっても過言ではない。よほど歴史的なデザインの本質を知り抜いていなければできない仕事だろう。
クライスラーPTクルーザーを語る時、あらゆる人々が指摘するのはそのデザインやパッケージ&機能性の部分であり、それはそれでPTクルーザーというクルマの本質を示しているのは間違いないのだが…。アメ車好きとしては何かが物足りない。やっぱり「走り」に刺激が欲しいのだ。
以前紹介したスーパーチャージャー装着のPTクルーザーが、今回新たにカムシャフトを交換するという。前回の状況でもそれなりの体感スピードは間違いなく上がっていたのだが、今回はカムシャフトを交換し、エンジンの性格をさらに一変させる。例えるなら、重量上げの選手から陸上のスプリンター選手へ、格闘技でいえば、プロレスラーからフライ級ボクシングの選手になってしまうような変化が可能だ。実際にはスーパーチャージャーとの組み合わせによる低速から一気に吹け上がるエンジンへ。そして右足に直結するアクセルレスポンスを! それによってシビックTYPE-Rに追いつければ最高!
ちなみに、こういったエンジンの性格を変えるための手法としては、カムシャフトの交換の他に、以前紹介したへダース交換、さらに燃調のセッティング変更等がある。
たとえば「速さ」という点においては、これまでにもブロアー、へダース等いろいろ手が入っているが、それでも、同クラスの日本車と競えば厳しい戦いになるという。そこがPTクルーザーにおけるひとつの壁だった。2.4リッターDOHC直4エンジンとは言うものの、同じDOHCでもスポーティな日本車をイメージするDOHCとは訳が違った。どちらかというとクライスラーは、それを「速さ」というよりも、お買い物グルマとしての、多機能車としての「余裕」に使ったのだ。だからこそ今回、カムシャフトを交換することでその余裕を速さへと転換するのである(今さらだが、このPTは05年型2.4リッターモデル)。
面白いことに、アメリカのアフターマーケットというのは、PTクルーザーようなスタイリングとパッケージ勝負の凡庸なパワーの持ち主にチャンスを与えてくれる。並のエンジンに、研ぎすまされた「牙」という武器をもたらしてくれるのだ。今回は、すでにスーパーチャージャーが装着してあるセッティングを考慮したカムを、クレーンカムにて手に入れた(市販されているということは彼の地でもPTのカムを求める方々がいるということだろう)。
この作業によって果たしてどのくらいの変化が起こるのか? 400馬力のクルマを500馬力にするのとは訳が違う、140馬力を200馬力にする快感(イメージであって、この数字は実馬力ではないです)。非力なクルマが、ライバルたちを颯爽と蹴散らす姿。そしてそこに至るまでのプロセス。果たして…?
まず、カムシャフトを交換した時点で試乗させてもらった。それでも違いは明白だった。まず何より感動したのが、速さの質が上がったこと。体感上の速さはもはや一般公道では試すことは出来ないくらいのレベルであることは分かりきっていたが、何よりそのサウンドやエンジンのフィーリングが明らかに違う。2000回転から4000回転くらいの吹け上がりが段違いに速くなり、その際の「カムに乗る」って感じがはっきりと伝わるようになり、「クゥオーーーン」と息の長い加速と音色が堪能できる。多少大袈裟にいえば、すでに装着されているブロアにターボが追加された感じといえば分かりやすいか?
実際にターボなどは付いていないのだが、そのくらいの二段階的な変化が感じられるようになっている。これまでも「ウーン、ウーン」とがんばっていたエンジンではあったが、さらに二回りほど「らしく」生まれ変わった印象だった。
個人的には、競争よりも悦に浸れるってところに一番感動した。何気ない走りでもエンジンを回している感触が得られる、生き物みたいな(大袈裟だが)エンジンって経験的に言えば、大枚はたかないと手に入れられないと思っている。やっぱりエコ重視の草食系エンジンでは、実用としてはアリだろうけど、メカニカルな感触を求めるクルマ好きには、満足感は得られない。また5000回転以上回さないと得られない、逆に実用度のないエンジンもちょっと微妙。
だが、この2000回転から4000回転という、一番おいしいところが一番気持ちいいPTのエンジンは、日常的な使用で毎度気持ち良くなれるのがうれしい。4速ATを2速ホールドで走れば、それこそ燃費には悪いが、体には良いかも!
ただ、ノーマルの点火系ではカム交換に対して必要量を補えていないとの印象を得たことで、この後点火系の不足を補うチューニングをすることになった。また排気温度センサーを装着するなど、これまで以上に温度管理をする必要があるという(シビアになったのではなく、最低限の限界を守るために必要)。
そしてMSD等をセッティングし、一週間後に再試乗。自分的にも最初に試乗した時よりも冷静に判断できるようになった感じだったが、それでもエンジンのレスポンスが素晴らしいと再び感動。そして公道上で試せる範囲においては、もはや比較できるPTクルーザーはいない、と断言できるほど速いと感じた。そして間違いなく楽しい。スポーティなエンジンやエンジンの質にこだわる方々ならきっと分かっていただけると思う(これによってシビックTYPE-Rに勝てないまでも、確実についてはいけるだろう)。点火系の調整を終えたことで、アイドリングや加速時に違和感等はまったく出ず、何度も申し訳ないが、ホントに素晴らしく楽しいPTクルーザーであった。
最近のレーストラックは、こういったV8以外のアメ車のチューニングに力を入れていると言う。どちらかと言うと、かなり積極的に。実際のマーケット規模でいえば、日本においてはアメ車といえども明らかにV6、直4ユーザーが多いという。そういった方々に面白さや速さを伝えたい。そして見違えた愛車に長く乗ってもらいたいという。今後はV6のマグナムや300にも手を入れて行くというから、そちらにも期待したい。
>> カム交換のPTクルーザー vol.2の記事を見る
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