1991年に登場した初代ダッジ バイパーは、RT/10という名のもとオープンボディのみ、というロードスターベースのスポーツカーだった。当初このオープンボディに搭載されたエンジンは、8リッターV10で、400hp、最大トルク62.2kg-mを発生させた。その後96年に登場したクーぺモデルのGTSには450hpまでパワーアップされたV10が搭載されることになる。
このGTSは、当初からモータースポーツへの参戦を意識していただけあって、「ダブルバブル」と呼ばれるルーフが特徴的である。ドライバーズシートと助手席が盛り上がっているそれは、ヘルメットをかぶるドライバーに配慮した設計といわれている。それほどまでにレース意識の高いクルマであった。
そんなダッジバイパーGTSを(ノーマルですら450hpあるという)、ル・マンカーであるGTS-Rのような風貌と性能にチューニングしたバイパーを紹介しよう。
ノーマルでも450hpオーバーなのに、トラクションコントロールさえ付いていないクルマをさらに580hpまでパワーアップさせている。当然ながらそのドライブは慎重に行わなければならない。
残念なことに、平均的なドライビングテクニックしか持ち合わせていない筆者は、ウォーミングアップ程度の走りしか扱い切れないために、当マシンの深意を突き止めることはできなかった。だがしかし、それでもこのクルマの並外れたパワーの一旦は垣間見られたように思う。
大きく鼓動する8リッターV10エンジンは、タコメーターの針が3000rpmを超えるころから一気に音色が変わり、周りの景色が一瞬にして線になってしまう。そしてワンオフマフラーから発せられる爆音は乾いた甲高い音色に変わりドライバーを魅了する。
フロントインテークに設置された青と赤のLEDでドレスアップ効果もバッチリ。闇夜ではさぞ映えることだろう。そういう遊び心にも長けている。なお、スポイラー内部に見える赤いワンオフのダクトは、ブレーキにフレッシュエアを効率よく送るためのもの。
GTS-R用のエアロにオリジナルのワンオフ加工を加えてホンモノのGTS-Rと同様の迫力を醸し出している。デビュー当時に遡ってみても、ここまでチューニングされているバイパーはほとんどなかったといっていい。
ワンオフのエアクリーナーにビッグスロットル、エーデルブロックのヘダース、スプリットファイアのアーシングキット等で550psを叩き出すという。尋常一様ではないエンジンルームである。ちなみにバイパーのV10は年々改良され最終的には600hpを発生させるに至るが、この初期型のV10をチューニングしたエンジンも全然負けてはいないという。
数々のレースで勝利をもたらしたバイパーGTS-R。とくに耐久レースでは無類の強さを誇ったのである。その強さは市販車にも当然受け継がれている。
「そこらのフェラーリやディアブロですら追いつかない」という事前の報告は、大袈裟ではなく事実である。だが、そのパフォーマンスを発揮させるためには、乗り手も覚悟してアクセルを踏まなければならない。なんせ2駆の550hpオーバー。グリップを失えばどうなるか?
だが、ジェットコースターよろしくズ太いトルクにモノを言わせてズバーッと走るこのバイパーの速さには、人々を狂わせるだけの麻薬のような魅力がある。
とくに初期型(1991-2002年)のバイパーをマジで走らせるためには、まず車体を地面に押さえつける効果を発するエアロを付けなければならないという。そのために前後のスポイラーやリアウイングは、ル・マンレースに出場したバイパーGTS-Rと同タイプのものを装着している。それだけでもこのクルマの凄みが伝わって来る。
またレーシングタイプのサスペンションを装着し、ストップテックの4ピストンキャリパーを採用した前後ブレーキシステムにHREホイールを組み合わせる。このポリッシュされた19インチのHREホイールは、ディスク側をブラッククローム、リム側をクロームで塗り分けてるなど、ちょっとした遊び心を持たせているという(そこが単なるレーシングマシンとの差であろう)。
若干センターにオフセットした各種ペダル類、またクラッチ操作やシフト操作などは至って普通のクルマである。だが、クラッチをつなぎ、1メートルも走れば、誰もがこのクルマの迫力に押しつぶされそうになる。
大排気量NAエンジンのチューニング。その吹け上がりの気持ち良さはハンパなく、リアのグリップ云々を忘れそうになるくらいアクセルを踏み込みたくなる!
まあ当然のことだが、このバイパーはフェラーリやランボルギーニなどのスーパーカー好きにかなりのインパクトを与えたらしい。これを見たランボオーナーが即刻バイパーに乗り換えたくらいだから。
各種スイッチがレーシングタイプに変更され、シフトノブも交換されている。またシフトはショートストローク用のリンケージ交換され、手首の動きで操作可能になった。雰囲気だけでなく、ほぼレーシングマシンといっても過言ではない。またステアリングの奥に燃調メーターが設置され、状態をチェックしながら足元にあるコントローラーで調節できるようになっている。
ストップテックの4ピストンキャリパーを採用した前後ブレーキシステム。ホイールはHREのポリッシュ19インチをチョイス。ディスク側をブラッククローム、リム側をクロームで塗り分けているのだが、この絶妙な色味がお分かりいただけるだろうか?
オリジナルではサイド出しとなるマフラーだが、あえてリアに引き直している。そのため全体的な雰囲気も一変している。エアをリアバンパーのダクトから取り込み、ディフューザー上部にあるアウトレットへ流し出すことで、マフラーから吹き出る熱気(というか炎)を下方向へ押さえつける。もちろん、マフラーを含め、いずれもワンオフ製作されたシステムである。
このボディの迫力と爆音(もの凄い!)に付いて行けるマシンはそうないだろう。
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