先日、2015年型チャレンジャーヘルキャットのタイヤ交換作業をたまたま拝見した。ヘルキャットに装着されているタイヤをハイパフォーマンスタイヤに交換すれば1本約7万円也。
で、そんなタイヤをホイールに組み付け(もちろんバランサーにて確認)サスペンションに取り付け、ナットを締めてハイ終わり、ということなのだが、その一連の動作の素晴らしさに感動し、改めて取材を申し出た。
その素晴らしさとは何か。まずはタイヤ装着における精度の高さ。通常、バランサーでバランスを取りタイヤを組み付ける一連の作業。
だがクワッドドライブでは、「細かい部分にこだわれば、一度の調整では完璧とは言えない」という。バランサーとタイヤの位置関係によって、完全な芯出しが行えていない場合があるというのである(若干のズレがあるという意味)。
バランス調整以前のタイヤの組み込み段階では、タイヤとホイールが適正に組み込まれた状態でエアを膨らませないと、タイヤが引っ張られた状態でマウントされ回転した際に縦横振れが生じる。
これは実際には組付いてはいるが、タイヤとホイールの芯円が出ていないことが原因である(この状態で走らせれば、低速ではあまり反応は出ないかもしれないが、高速走行時にステアリングがガタガタ揺れる等の何らかのネガティブな反応が出てしまう)。
だから、タイヤがきれいに回転しない場合はタイヤとホイールのマウントをやり直し、バランス調整を数度行い、精度の高い芯出し、取り付けを行っていたのである(時に一度車両に装着した後に違和感を感じ、再度タイヤを外しバランスを組み直した例もあるという)。
でも一体、そこまでする理由とはなにか。タイヤ交換の後にアライメント調整を行うのだが、そのアライメントを調整する上で、タイヤとホイールの芯出しが行えていないために、そのズレによるブレがアライメントにわずかながらでも影響を与えるから、という。
でも、筆者は「そこまでしているタイヤ屋さんって、ありませんよね?」と。
林氏いわく「今や、アジアンタイヤを装着する等、コストダウンを求める方々が多数いるなか、1本7~8万円の新品タイヤを装着する方々は、やはりこだわりを持った方々だと思いますし、そういう方々のアメ車は整備面でもシッカリした車両が多いです。弊社ではそういった方々の所有意識の高さに応えるためにも、タイヤ一本の装着からこだわりとプライドを持って作業する必要があると思っています」
クワッドドライブが整備以外に、このタイヤやアライメントといった分野にこだわる理由は、自社にてすべての作業が可能だからである。=その作業知識と経験値の高さを持っていることと自社にて調整可能な機材をすべて持っていることに尽きる。
筆者の経験上、アライメントを自社で行っているアメ車ショップは日本全国においてもほとんどない。仮にアライメントと称して作業を行っていても、基本、トーイン、トーアウト(サイドスリップ)といったトー調整しかしていないケースがほとんどである(そもそもアライメントといった認識を持っていることすら怪しい)。
林氏いわく「それはアライメントではありません。アライメントとは、単なる数字あわせの調整を意味するものではありません。まっすぐ走らせる直進安定性機能を重視し、ステアリングの応答性、復元力、わだちの取られ、ブレーキ時のステアリングの取られ(ブレーキリード)といった総合的なステアリングの反応をアライメントと呼び、サスペンション、タイヤ、車体の個体差等、そういった車両のあらゆる部分を考慮したセッティングが必要だと思っています。よって数字に『答え』は有りません」
以前、メーカーの広報車を借りた時の話だが(数年前の話)、車体の左流れが大きく驚いた経験があり、その経緯を車両返却時に告げると、女性スタッフが「こんなものですよ」と言っていたのを今もハッキリと思い出すが、世の中的な「アライメント」といった認識は、恐らくその程度のものなのだろう(メーカーの方々でさえも)。
でも今回、そういった低いレベルの知識しか持てない理由も、この取材を通してわかったのである。
その理由のひとつは、道路の通行区分の問題。アメ車の場合、アメリカの道が右側通行であるがゆえにアライメントは右側通行用でセッティングされている。 右側通行用とは、右傾きの道で真っ直ぐ走るように調整されていること。すなわち、平坦な道では若干左に流れるように調整することでバランスを取り、右側通行(右傾き)の道路で真っ直ぐ走ることができるようになっている。
なので当然、そのセッティングまま日本のような左側通行(左傾き)道路で走らせれば、車体は当たり前に左へ左へと曲がっていこうとする。 アメ車が日本の道路を走って、(強い)左流れになる理由は、それである。決してアメ車がボロいわけではない。
だから、日本の道路でまっすぐ走らせるようにセッティングするなら、アメリカ道路基準(右側走行用)を日本の道路基準(左側走行用)に変更してやらなければならない。でも、当該アメ車に記載されているアライメントデータは、当然ながらアメリカの道を走る用の数値である。だから、その数値にいくら合わせたところで、日本の基準にはならないわけで左流れは一向に収まらない。
理由その2。仮に立派なアメリカ製アライメントテスターを持っていたとしよう。そのテスターにてアライメント調整を行うにしても、そのテスター内に集約されているデータは、これまたアメリカ車の純正アライメントデータである。そのテスターで何度アライメントをチェックしようとも、アメリカの道路上を走る数値にセッティングしているだけであり、日本の道路事情にはマッチしていない。
なので、アライメントを何度取っても日本でまっすぐ走らないのは、テスターのせいではなく、そのテスターの意味を知らない方々がセッティングしているせいである。だから左流れの強い状況を「アメ車だから」、「こんなもんだよ」、もしくは「それがアメ車の個性なんだよ」と開き直る方々の気持ちも分からなくはないのである。なんせ知らないのだから、知らないままを押し通したほうが楽だから。
上記のとおり、アライメントの認識が低いのは、結局のところ、日本の道路事情にあわせたアライメントの理解力とその作業能力がないことに起因している。
クワッドドライブでは、アメリカ「JohnBean」社製の4輪アライメントテスターを導入している。だから当然、その中のデータは上記同様のアメリカ右側通行用のデーターであるが、彼らはその数値から日本の左側通行用のデータを自社で製作し調整をおこなっている=クワッド製作基準値。
それは、サスペンションジオメトリーの理解力とその数値が導く動作の感覚的な認識能力、さらにはそれらを生かしセッティングする応用力があってこそ導かれる基準値であり、数字合わせのトー調整をアライメントと称している方々やアメリカ道路の数値で調整している方々との決定的な違いである(もちろん、このレベルに達するまでには長年に渡る試行錯誤の連続があったのは事実だが、その部分は当たり前の努力であり、あえて語る必要はないだろう)。
さらにアライメントは、クワッド製作の基準値に調整してもすべての車両が同一のクオリティには仕上がらない難易度の高いものという(=だから関わりを持たない方が楽であり、知らない方が楽なのだ)。
厳密にいえば、ボディ、フレーム、ステアリング系、サスペンション、タイヤ、…etc。要するに、どの車両も製品的な個体差が大きく、グレードの違いやカスタム内容も異なるから、いくら日本の道路事情に合わせた数値と言えども完璧ではなく(それだけでもタイヤの片減りやある程度のステアリグの改善は見込めるが)、まだまだ詰める余地があり、現車セッティングでの芯出しが必要になる=どのショップも安易に行える作業ではない。
ちなみに、この現車セッティングができるということであれば、その車両がノーマル状態でも、カスタマイズ状態でも、もっといえば、国産車でも欧州車でも構わないということになる。極論すれば、28インチタイヤ装着の車両だって気持ちよく走らせることが可能であり、大型ブロックタイヤ装着のリフトアップ車だって、高速時の直進安定性を求めることも可能になるはずである。
再び林氏いわく「アライメントで入庫した車両は、直ぐに調整作業をするわけではありません。事前に、調整のための用意が必要になります。車両の足廻りのブッシュ系の劣化、サスやステアリングリンケージ系の消耗やガタ、ハブのガタ、タイヤの摩耗、フレームの状態、ブレーキ制動力、カスタマイズの状態…etc。
時にアライメント作業よりも優先して改善を図らなければならない箇所があればまずはそれらの修理&改善を図ってからのアライメント作業になります。この最初のインプレッションでその車の作業後の完成度がほぼイメージできるくらいです。
で、こういった事前チェックが何より大切です。仮に改善を図らずアライメントの芯出しをしたところで、無意味になってしまうからです。
またカスタマイズカーであっても芯出しは可能です。もちろん、装着パーツを加味した調整になるので限界はありますが、それでも作業前後の違いは明確になりますね」
そうはいっても、実際の調整作業に入れば車両ごとの違いに試行錯誤は続く。しかもこの作業、十数万円する高額作業では決してない。仮に加工が入っても十万円もしない作業である。にもかかわらず、右側通行用で設計されたアメ車を左側通行用にコンバージョンすれば、調整キャパが足りないケースがあり、そのキャパを広げる加工が必要になる場合がある。
特に近年のアメ車にはアライメント調整カムが装着されていなかったり、調整幅が少なかったりするために難易度が上がる場合が多々ある。それでも真摯に向き合い、ひたむきに調整に時間を捧げるのは、やはり誰もができる作業ではないというクワッドドライブとしてのプライドに他ならず、同時に、アメ車への認識改善を求める強い姿勢の現れである。
昨今、アメ車の価格高騰化が叫ばれており、これは本国での価格上昇に起因するのだが、もはや日本国内では有名欧州車等と対して変わらない価格帯のアメ車が多数存在する。
だからアメ車の価値を上げるべく、車両のコンディションを整え、サスペンションを整え、日本の道路事情でまっすぐ走らせようと考えるユーザーさんがいるのはごく自然なことだろう。
で、そういった思いを持ってアメ車に乗れば、たしかに整備費用や調整費用はかかるのだが、シッカリと期待に応えてくれるのもまた、現代のアメ車なのである。そしてその状態でこそ、メルセデスやBMW、ポルシェすら持たないアメ車の個性が一段と花開くのである。決してまっすぐ走らず、燃費が悪く、調子の悪さこそが、アメ車の魅力ではないのだ。
結局のところ、林氏が求めているのはアメ車に対するの低い認識の底上げである。
だからそういった「志」的なものを持ったオーナーさんは、そういった志を持ったショップに行って話をしたり整備をしてもらったり調整をしてもらったりした方がいいに決まっている。
今回のアライメントの件だけでなく、そういった総合的な期待に応えてくれるクワッドドライブに行けば、その理由がきっとわかるだろうし、今までとは違う別世界でアメ車を楽しむことができるはずである。
話は戻るが、上記タイヤ交換とアライメント調整を終えたヘルキャットは、指を軽く添えた状態で関越道を爆走することが可能であるということだ。
283,800円
AUDIO&VISUAL
あとづけ屋
183,250円
AUDIO&VISUAL
あとづけ屋
272,800円
AUDIO&VISUAL
あとづけ屋
3,553円
MAINTENANCE
6DEGREES