トレイルブレイザーはS-10ブレイザーの後継車として2001年にデビュー。2008年まで生産されたが、GMの経営不振による生産工場閉鎖などの影響もあり、初代のみで絶版車となった、ある意味悲運のモデルである。日本では2001年から2006年まではスズキが、2007年と2008年はゼネラルモーターズ・アジア・パシフィック・ジャパン(以下GMAPJ)が輸入しており、スズキアリーナ店、GMシボレー店、ヤナセで正規販売された。
日本で正規販売が開始された当初のトレイルブレイザーは、ベーシックなLTと上級のLTZの2種類のみという非常にシンプルなラインナップだったが、2002年には3列シートを備えたロングボディのEXTを追加。さらに2003年にはEXT限定で5.3リッターV8が選べるようになり、スズキ時代の後半は4.2リッター直6搭載のLTとLTZ、4.2リッター直6搭載のEXT LT、5.3リッターV8搭載のEXT LTZという、2ボディ、2エンジン、2グレードの組合せからなる計4モデルのラインナップとなった。しかし、2006年にEXTを製造していたオクラホマ州の組立工場が閉鎖されたことにより、最後の2年間は4.2リッター直6搭載のLTとLTZという発売当初の2モデル構成に戻された。
実はトレイルブレイザーはアメリカ本国では2006年にフェイスリフトが行われているのだが、日本に正規輸入されたトレイルブレイザーは、輸入開始から販売終了までフロントマスクは変更されなかった。また、アメリカ本国には2006年以降、初期のC6コルベットに搭載された6リッターV8のLS2エンジンをディチューンして搭載した『SS』というハイパフォーマンスモデルが存在していたのだが、このモデルが日本に正規輸入されることもなかった。
トレイルブレイザーは本来であれば2007年に新プラットフォームで2代目がデビューする予定だったが、前記した通り、GMの経営不振などもあり、結局その計画は頓挫。2008年12月16日にオハイオ州のモレーン工場で最後のトレイルブレイザーがラインオフした時点で絶版となった。しかし、生産終了から3年を経た昨年の11月に、ドバイ国際モーターショーにて2代目モデルの登場が発表された。
さて、前置きが非常に長くなってしまったが、実際のトレイルブレイザーの話に入ろう。
筆者が初めてトレイルブレイザーに試乗したのは、スズキの広報車が用意された直後。その時の筆者の正直な感想は「何だこれ? ブレイザーという名前は付いているけど、S-10とは完全に別物。というか、今まで乗ったアメリカンSUVとは全然違う!」というものだった。
当時の筆者はアメ車専門誌の編集をやっていたので、毎月のように新旧取り混ぜ様々なアメリカンSUVに乗っていたのだが、初めて接触したトレイルブレイザーは、そのスタイルも乗り味も雰囲気も、それまで筆者が接してきたどのアメリカンSUVとも違う異質なものだったのである。
トレイルブレイザー以前のアメリカンSUVに対する筆者の印象は、おそらく一般的な日本人が『アメ車』に対して抱くイメージと大差ないものだった。それは例えば「ピックアップベースの無骨なデザイン」「大柄なボディ&広大な室内空間」「大排気量自然吸気エンジンならではのパワー&トルク」「柔らかい乗り心地」といったものであり、当時の日本のアメ車マーケットの中心であったシボレー・タホやサバーバンは、確かにそんなクルマだった。
もちろん、ジープ・チェロキーやダッジ・デュランゴ、フォード・エクスプローラーといった小型〜中型に分類される他社のアメリカンSUVについては、GM系のフルサイズSUVとは明らかに違うフィーリングがあったが、それらのモデルの場合、何処かに必ずアメリカを強く感じさせる要素があった。
それに対してトレイルブレイザーは、クルマを構成する様々な要素がとにかく全て新鮮だった。シャープで攻撃的な印象のエクステリア、トラック的な要素を全く感じさせないインパネ、ボディサイズの割に広くない室内空間、スムーズに気持ち良く回るDOHC 24バルブの4.2リッター直6エンジン、意外なほどに小回りの利くスポーティな味付けの足回りなど、それまで筆者が体験してきたアメリカンSUVとは明らかに違っていたのである。
メーカーに広報車の設定がなくなって以降、今回の取材に至るまで、筆者はトレイルブレイザーに乗る機会がほとんどなかった。したがって、トレイルブレイザーをまともに運転したのは今回約2年振りだったのだが、お店でキーを受取り、エンジンをかけてスタートしてすぐに「あれ?」と奇妙な違和感を感じた。はっきり言うと「もっとパワーがあったとはずだけど…」と思ったのである。
もっとも、その疑問についてはほどなく解消した。というのも、パワー不足を感じたのは出足のほんの一瞬だけで、走り出してアクセルを踏んでいくと、記憶にある通りにスムーズ&パワフルに加速を始めたからである。
と、ここでようやく思い出したのが電子制御スロットルの存在。トレイルブレイザーの出足がマイルドなのは、実はトレーラーなどを牽引する際にジョイント部分を傷めないための措置であり、つまり最初から意図された味付けなのである。これを筆者はすっかり忘れていたというわけだ。
今回の取材では、交通量の少ない時間帯の国道1号線を中心に30分ほど試乗を行ったのだが、エンジン、足回り、乗り心地、ボディ剛性、音といった各要素についての感想は概ね良好というか、記憶の中にあるトレイルブレイザーとほとんど変わらなかった。
ただ、今回の試乗車はホイールをノーマルの17インチから20インチにサイズアップしていたこともあり、乗り心地が少しだけ固めに感じたり、ステアリングに対する応答がほんの少しだけ鈍く感じることはあった。しかし、それも注意深く観察してやっと気が付く程度の僅かな差であり、タイヤ&ホイールの大径化がもたらすビジュアル面の効果を考えれば、どちらが良いかは人それぞれ評価が分かれるところだろう。
初代トレイルブレイザーがデビューしてから既に10年以上。この間アメ車を取り巻く状況は大きく変化した。アメリカンSUV=V8という図式は崩れ、各社とも高性能なV6や直4+ターボといった新時代のエンジンをSUVにも続々と投入。ボディもピックアップベースのボディ・オン・フレームからモノコックへと主流が移ってきた。
デビュー当時、それまでのアメリカンSUVとは異質に感じたトレイルブレイザーの存在も、今では正直「古い」と感じる部分も多い。しかし、だからといってトレイルブレイザーに魅力がなくなったわけではない。
初代トレイルブレイザー(と兄弟車であるGMCエンボイ)にしか搭載されなかった4.2リッターの直6エンジンは、直6らしいスムーズさとアメリカンならではのトルクを併せ持った名機だし、昔ながらのフレームボディには最新のモノコックボディにはない頑健さがある。また、スペース効率よりもスタイルや走行性能を優先したとしか思えないデザインは今見ても十分に恰好良いし、人気が高かったモデルだけに、チューニング用、ドレスアップ用ともにアフターパーツもまだまだ豊富に存在する。
そして極めつけは中古車市場における相場である。今回試乗した個体もそうだが、2004年前後のモデルであれば程度の良い車輛でも100万円以下のプライスを付けた物件がザラに存在するし、高年式のモデルでもコミコミ200万円もあれば十分にターゲットとなる。
今回の取材で改めて実感したのだが、購入後の維持費まで考慮した総合的なコストパフォーマンスという観点で言えば、トレイルブレイザーほど優秀なアメリカンSUVというのも珍しい。トレイルブレイザーというのは、初心者からマニアまで、誰にでも気軽にオススメできるアメリカンSUVと言えるだろう。
12,810円
PERFORMANCE
6DEGREES
17,298円
PERFORMANCE
6DEGREES
18,420円
PERFORMANCE
6DEGREES
2,090円
MAINTENANCE
6DEGREES