たとえばキャデラックエスカード。キャデラックというブランド志向や高級SUVという立ち位置を考えた場合、ノーマル6.2リッターV8エンジンが、まったりとしたスムーズな加速を身上としたエンジンに、メーカーチューニングされている理由が理解できないわけではない。牽引を主とするSUVとしての万人向けのセッティング。きっとそういう物を求める方々のニーズに合わせた、メーカーが考え得るベストなチューニングなのだろう。
けれど、日本人のアメ車好きが求めるV8理想像というのは、とくに6.2リッターV8がもたらすパンチ力みたいなものを想像すると、ちょっとマイルド過ぎないか? と思う方がいても不思議ではない。もちろん、キャデラックがもたらすマイルドさに十分に満足されている方々が大多数であろうということは分かっているが、中には「大排気量=荒々しい大パワー」みたいなイメージをもたれている方も現実的に存在する。
そういう意味でへダースチューニングを行えば、エンジンのピックアップの立ち上がりが俊敏になり、中速以降の伸びが格段に変わる。仮にへダースチューニングにより、若干の低速トルクを犠牲にしたとしても立ち上がりの素早さで相殺できるし、何より乾いたキレのあるV8サウンドが、リアルアメリカンを体感させてくれるのである。
たとえば写真右のシェビーバン。10年ノーマルで乗ったオーナーが、そろそろ乗り換えを検討していた時期にへダースのチューニングを試みる。これまでの10年間での使用歴でエンジンや車体の動きが体に染み込んでいたにもかかわらず、チューニング後に感じたエンジンが「まるで別物」に思えたというくらいの変化。
数値での確証はなくとも、その変化がもたらしたフィーリングの向上は、明らかに前とは違う。そして「バン」であるにもかかわらず、運転することの楽しさが俄然増している…。チューニングによるこうした「変化」によって、オーナーの意識が再び変わったことで、また楽しい愛車生活が待っているのである。
これだけの「変化」や「楽しさ」の向上があるにもかかわらず、へダースチューニングが一般的にならない理由のひとつに、全車対応の社外パーツが販売されていないことがあげられる。
へダースには、ロング、ショート、等長など、いろいろな種類があるのだが、アフターパーツ業界において、どのアメ車も対応されているかと問えば、実際にはそうではない。たとえばシェエビーバンは、あくまでバンであって、彼の地ではそういったパーツが求められている状況ではない。それは日本で、ハイエースにへダースを求める方がいるのか? という状況を考えればお分かり頂けるだろう。
だがそういった状況で、レーストラックがへダースチューニングを勧める理由は、車種を問わずチューニングが可能だからである。
自社でワンオフマフラーなどを製作している実績と経験、さらにレース等で鍛えた技術力によって、市販されていない車種にも、自社にて対応することが可能なのである。ちなみに上記2台のヘダースも別車種用をベースに、自社にて改良を加え製作したのだという。
これまでにバンやトラックやSUVベースにかなりの数のへダースチューニングを行っているということで、いろいろ質問してみた。
へダースチューニングが盛んであるというお話を聞きましたが、どういった状況からへダースに着目したのでしょうか?
「一番最初のきっかけは、『フィーリングを向上させることで、楽しさを増すことができないだろうか?』ということを考えたことです。最近のアメ車は、動力性能の向上が目覚ましいので、カスタムすれば簡単に300キロ近いスピードが出る。ですが、一般道でそういうスピードを出す場所がまずないですし、正直危険と隣り合わせです。免許証の心配もいる。それなら、いっそう違うアプローチで『スピード』と同様のファンを得られることはできないか? って考えました。その答えのひとつが「フィーリングの向上」でした」
私も試乗させてもらいましたが、V8ってこんなに軽く吹けるのか? って正直驚きましたが、あの雰囲気は、たとえばエアクリーナーやマフラーなどの交換ではなしえないものなのでしょうか?
「分かりやすくイメージしてもらうために、ラーメンに例えましょうか(笑)。愛車のダッジバンに10年ノーマルで乗るってことを、素の醤油ラーメンを10年食べ続けるって考えてみてください。10年経って、そろそろ違う味も食べてみたくなりませんか? この場合、違う味を求めて「クルマを乗り換える」ってことは除外します。ラーメンには、醤油以外に「味噌」も「塩」もあるわけです。
つまり、へダースを交換するということは、エンジンの性格を変えることになるわけですから、醤油ベースを味噌に変えるくらいの大きな変化がもたらされます。味噌でも塩でもいいんですが、へダースチューニングによってエンジンの性格をガラリと変える大きな変化が可能なんです。
ちなみに、先ほど話していましたエアクリーナーやマフラーなどは、ラーメンでいうトッピングみたいなものです(考え方として)。トッピングはベースが醤油でも味噌でも塩でも、好みに応じて入れることが可能ですよね。それぞれの味に、自分の好きな具をトッピングする。つまり、ベースの味に効果を重ねることが可能です。ですが、基本はベースの味が重要ですね。そのベースを味の変えたことで、また10年、楽しむことができるんです。ちなみに車種は問いませんし、年式も問いません。それにV8、V6とかも問いません。それぞれに性格の変化が体感できます。ここでは触れませんが、へダース交換の他にエンジンの性格を変える方法は別にもあるんですが、それがカムの交換です。ま、余談ですが」
取材中に何度も出来てきたフレーズ、それが「アメ車だから効果がある」というものだった。聞けば、国産車やドイツ車等はノーマルの時点でかなりの性能が維持されていることが多く、たとえばそれはカローラレベルであってもある程度の領域に達しており、正直手を加える余地が少ないという(日本車には標準で等長ヘダースが付いたものまである)。
だがアメ車の場合、いいか悪いかは別にして、そういった国々のレベルに達していないから、もしくはアフター業界が手を入れる余地を残してくれている(?)こともあり、へダースチューニングというのは非常に効果が出る。
そういった中でひとつのお勧めが、「日常的な使用を考えた上で、エンジンのピックアップを速くして、中速以降の伸びを良くすること」である。そういった意味を込めてレーストラックではロングチューブのへダースをお勧めしているという(もちろん好みに応じて対応可)。
「いたずらに高回転化したところで、アメ車としての良さをなくしてしまう可能性もありますから、有り余る低速トルクを若干犠牲にして、エンジンの立ち上がりを早めることで、街中使用でも十分な効果が体感できます。さらにロングチューブならではの乾いたキレのあるエクゾースサウンドが味わえます」
極限までパワーを追い求めるようなチューニングとは異なり、持ち前のパワーにフィーリングの向上をもたらすへダースチューニングは、自前のエンジンやミッションに過大な負担を求めるようなチューニングではない。さらにエアクリーナーやマフラー交換などのトッピングにより、一連の相乗効果が見込めるアメ車ならではのチューニングである。
長い間連れ添った愛車にフィーリングの「変化」を求めるなら、へダースチューニングは一考すべき手法である。
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