98年にモデルチェンジを行い登場した5代目セビルは(1998〜2004)、デビュー当時日本でも相当な話題となり、その年は年間で過去最大の販売台数を稼いだといわれている。
人気となった背景にはマーケティング活動の成功も隠れている。当時の輸入元ヤナセは、その前年からキャデラックのターゲットの若返りを目指し、テレビCMに歌手の桑田圭祐を起用するなど話題づくりをしていた。そして導入後は「妻の運転で…」なんてCMコピーを前面に打ち出し、女性でも扱いやすいクルマだということを訴えたのである。
もちろん、クルマとしての内容も話題性に負けることなく充実していた。日本仕様を含む輸出モデルはバンパーを付け替えることで全長5mを切り、右ハンドルはダッシュパネルを1インチ前方にオフセットした設計をすることで、すべてが日本の国土や日本人に合わせたような寸法にしたのである(日本向けに敢えてしつらえたということ)。
全長4995ミリは4代目セビルより215ミリも短いだけでなく、当時のライバル・セルシオよりも短いのだ。
また、ノーススターエンジンというネーミングで紹介された4.6リッターV8エンジンは、304psというハイパフォーマンスユニットであり、単純に同クラスの国産車やドイツ車と比べても、これに勝るものは数少なかった。
ちなみに、グレードは大きく分けてSTSとSLSの2種類。前者は304psで後者は279psエンジンを搭載していた。つまり、よりスポーティでラグジュアリーなのがSTSということだ。
この年代のセビルは、ノーススターエンジンを含むノーススターシステム自体が大きなウリであることは、いうまでもないだろう。
スタビリトラックを有するこのシステムは、各部のセンサーが常にクルマの動きをモニタリングし、その挙動を安定させる。具体的には、アンダーステアが発生すればトラクションコントロールとABSが作動するという仕組み。そういう意味ではコンピューター化が進んだモデルだったとも言えるだろう。
GMグループのトップエンドに君臨するキャデラックの、しかももっとも人気の高いモデルだけに、最新のテクノロジーはセビルから発信していたのである。
デザイン的にも、外装内装にアメ車とヨーロッパ車のいいところが共有されており、往年のバタ臭いアメリカ的な印象がまるでなく、非常にサッパリした感じにまとめられているのだ。
走っても、非常に硬質な印象で、ユラユラ、バタバタといった感じはなく、おおらかな感じは残しつつも、驚くべき車体剛性を伴って骨太でダイナミックな走行性能を実現したのである。
全長5mを切り、ハイテクで武装され、国際化されたキャデラックということで、敬遠されている方もいるかもしれない。だが、乗ってみると分かるが、モダンなんだけどアメ車度特濃は高く、クルマとしてアメ車として非常に好感が持てる。今となってはすでに中古車でしかこの味は堪能できないが、この時代のキャデラックは是非とも一度味わってみると良いかもしれない。
取材車両は2000年型のキャデラックセビルSTS。走行距離10万4000kmのディーラー車、価格が38万円。14年前のキャデラックとは言いつつも、この価格を見てスルーする方が多いのではないか。恐らく、安いがためにコンディション不良を疑う方がほとんどなのだろう。
だが、長年こういったクルマを見続けている筆者のような人間には、意外にもアタリに見えて仕方ない。もしこの車両、事故車じゃなければラッキーなお宝車両かもしれない。人気下落の底値が付くも、クルマとしてはまともか…。ということで、細部をチェックしてみた。
そもそも14年も前のモデルとはいえ、普通に走るキャデラックが二桁万円で手に入るのは日本だけだ。で、この年代のキャデラックの一番のポイントはノーススター。事故車じゃなければ、そこに注目して精査すれば、それ以外の消耗やメンテは他のアメ車とそんなに変わらない。すなわち「怖くない」。
あと、GM初期のオールアルミエンジンは、熱にはそれほど強くない。あんまりガンガン回すとオーバーヒートの危険もなくはなく、一度オーバーヒートしてしまうと直すのは大変と言われている。鋳鉄製の昔ながらのV8ほど頑丈じゃないということなので、その点に着目して試乗してみる。
見た目に関しては、そんなに大きなキズはないが、小キズは致し方ないだろう。だが総じて全体の印象は悪くない。お世辞じゃないが、意外にもキレイだ。とはいえ、ヘッドライトのベゼルは曇っているし、タイヤは硬く消耗しているし、内装も距離的なヤレは確実にある。レザシートのシワやヨレは張替え以外にはどうにもならないだろう。
だが、一番気になる走りがかなりビシッとしていることに安心する。特にハンドリングの中心となるステアリング系の反応がまだまだシッカリしているし、エンジンは吹け上がりは重い気がするが、異音騒音の類がまったくなく、ミッションの変速がこれまたスムーズで特に気になるところが出てこないのが嬉しい。エンジンに関しては、前オーナーがあまり回さない方だったからとすれば、これまたラッキーだろう。タイヤが寿命だと思われるが、非常に柔らかながらコシのある乗り心地がいかにも前近代的なキャデラックの味であり、その味を残しているこの個体はやっぱり侮れない。
搭載されている4.6リッターV8DOHCノーススターエンジンの最高出力は304psと、現代の感覚で見ると少なく感じるかもしれないが、ラグジュアリーセダンとしては十分であり、発進加速は意外とおとなしいものの、中間加速はかなりの力強さである。
ゆったり座れる肉厚で大柄なレザーシートは、若干コシは残っており、いかにもアメリカンプレミアムセダンのシートといった感じで座り心地は良好だ。この年代のセダンこそ、ゆったりノンビリ乗るのがお洒落なだけに、ヤレはあるが、まだまだ使える範疇である。
聞けば、「このクルマの安さは本来手を入れて販売するべきポイントに手をつけていない状態だからこそのプライス」ということで、「仕上げて100万円+αというプライスを提げた方がらしいんだろうけど、乗る方の好みもあるからね~」。「この金額なら誰でも手を入れなきゃ乗れないことはわかるだろうし、ベースは良いから本来の味も取り戻せるし」ということだ。
今や純正パーツにこだわらなければ、それこそいくらでも安価に仕上げることが可能だろう。なにしろ、キャデラックのロゴが付くだけで純正パーツのプライスは半端なく高いというし。そういうわけで、純正パーツを駆使したパリパリのセビルにすることも可能だし、他のパーツを流用して仕上げることも可能といううことだ。すなわち、そのベースとなる骨格はまだまだ生きているということである。
現代のキャデラック系セダンにはV6か直4エンジンだけが搭載されている。特殊なモデルであるCTS-Vは別にして、キャデラックに純正搭載されたV8ユニットは貴重である。しかもノーススター。OHVのLSシリーズやボーテックシリーズのV8ユニットとはひと味違うフィーリング。スムーズに回転してトルクも十分だし、なにより高級車のためのV8ユニットという感じ。パワーも十分で、スムーズに回るエンジンではあるけど、ぶっ飛ばすようなクルマじゃないから、逆に現代のスポーティキャデラックにはない芳醇なトルク感とともにベストマッチの印象だ。
最新のキャデラックは確かによく出来ているが、小排気量でキビキビ走る高性能セダンなんて、正直日本車にもドイツ車にもたくさんある。この世代のキャデラックのようなオンリーワンの存在は貴重だろう。それがこんなに安く手に入るのだから、良い時代だと思う。
「安く買ったクルマにお金をかけたくない」という人もいるかもしれないが、それはまったくの逆。安く買ったクルマ(基本のシッカリした)に適切に手を入れて、長く乗るのがアメ車道(趣味)。アメ車は基本が頑丈に出来てるから、メンテさえ怠らなければ長く乗れるし。結果的にエコノミー&エコロジーにも繋がるし。デビュー当時はブラックやホワイトの人気が高く、中古車市場においても圧倒的にブラック&ホワイトが幅を利かしていたというが、このシルバーも悪くないし(個人的にはグリーンメタリックやワインレッドが欲しい)。
今回のセビル、一度しっかり手を入れてやれば、かなりの状態になると思う。そして寿命も飛躍的に伸びると思う。それにウエストクラブは、ノーススターエンジンを搭載したセビルやSTS、DTSの修理&メンテナンスに慣れてるので、何かあっても安心だろう。
輝かしい90年代のアメ車を体験するのに、この個体はかっこうの素材であると思う。
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