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あえて復活させたFRの大型セダン

キャデラック STS 4.6 (CADILLAC STS 4.6)

渾身のモデルだけあって真価は不変

キャデラックSTSは、前年まで存在したキャデラックセビルSTSの後を受けて登場した4ドアセダン。特徴は、それまでFF駆動だったセビルから、FR駆動へと回帰したモデルだったということ。すなわち新たな指標をたててコスト度外視の、キャデラック渾身のモデルであった。

更新日:2014.05.13

文/椙内洋輔 写真/椙内洋輔

取材協力/ウエストクラブ TEL 053-427-0808 [ホームページ] [詳細情報]

V8ノーススターを搭載した最後のFR

 2004年に2005年モデルとして登場し、2011年に消滅したキャデラックSTS。このSTSは、前年まで存在したキャデラックセビルSTSの後を受けて登場した4ドアセダン。特徴は、それまでFF駆動だったセビルから、FR駆動へと回帰したモデルだったということ。

>> キャデラックセビル

 STSは、たった7年だったが、FRの大型セダンとしてキャデラックブランドを率いた中心的存在として活躍したモデルなのである。

 ただしこのSTS、2011年に消滅後は、キャデラックDTSと統合になり(ここで再びFFベースに戻る)、2012年に登場する後継モデル・XTSへと繋がって行くことになるのだが…。

>> キャデラックドゥビル
>> キャデラックXTS

 すなわち、このSTSは、2000年以降に登場したFRの大型セダンとして、しかもV8エンジンノーススターを搭載した最後のFRモデルとして、そして最後のアメリカ的キャデラックとして、歴史に残る1台なのである(今や時代は「国際的なキャデラック」となっているわけだから)。

 2004年に登場したSTSは、それまでのセビルから駆動系を一新し(横置きから縦置きに変わるために約8割が新開発)、あらたにFRセダンとしてリニューアルされた。ライバルはずばりトヨタセルシオ。それに伴い用意されたグレードは3種類。3.6リッターV6エンジンを搭載したFR、4.6リッターV8ノーススターを搭載したFR、さらに同じく4.6リッターV8ノーススターを搭載したAWDであり、じつはこのFRベースの4駆モデルこそが、最強のツーリングマシンだったことは意外に知られていない。

 しかも、この時代以降に続くキャデラックのデザインフィロソフィーである「アート&サイエンス」に基づく直線基調のデザインが採用され始めたモデルということで、キャデラックの「変化」を対外的にアピールし始めた最初のモデルであった。

搭載されるエンジンは、4.6リッターV8DOHC。324ps、最大トルク42.8kg-mを発生させ、5速ATを介して駆動される。同じく3.6リッターV6も存在し、こちらは257ps、最大トルク34.8kg-mを発生させた。同じく5速AT搭載。

それまでのセビルから進化させたインテリアは、シンプルイズベストの見本のようなもの。それでも各部のクオリティは格段に向上し、質感もかなり高くなっている。

ライバル達をハッキリと見定めての登場だけあって、室内空間はこれまでのアメリカ的バタ臭さはまるでなく、さらに大味的なところもなく、インターナショナル的なクールな雰囲気になっている。

これまでの「横系」からあらゆる部分において「縦系」のデザインへと変化させているのが、現代的キャデラックのデザイン的意匠である。

乗れば分かる本当の価値

 さらにライバルがライバルだけに、アメリカ国内的な基準ではなく、世界基準を視野に入れた仕上がりと俊敏で無駄のない走行感覚が特徴である。しかも、これまでのどのモデルよりも静粛性が高く、正直初めて乗ったときの驚きは今なおハッキリと覚えている。「せっかくのV8音がまるで聞こえん、台無しやん」と(笑)。

 ハンドリングも、まさしく国際基準のそれであり、どんな状態でもシッカリした感触を失わず、速度に応じて適度な反力を保ちつつ、切り込む量とクルマの反応が常に正比例している。V8モデルには、GMご自慢のマグネティックライドが装備されており、今現在3世代目となる最先端技術を伴うサスペンションの初期型であったが、当時からその評価は高く、だからこそ速度の如何にかかわらず、常に最良の状態が味わえたのである。

 ちなみに取材車輌とは異なるが、先に述べたAWDモデルは、前40%、後60%とFR感覚を残した固定パワー配分のフルタイム4WDだったが、まるでFRのような自然な操舵フィールが特徴であり、悪天候時を考えればまさに理想的なツアラーとして多くの好事家に評価されていたという。

 取材車輌は、その初期型モデルで6万キロ弱の距離を重ねていた4.6 V8 FRモデルだったが、その骨格の強さは折り紙付きであり、いまだにキャデラックライドが味わえる。しかも現代的意匠をまとった大型セダンだけあって、街中での迫力もかなりのもの(フロントマスクの好き嫌いはあると思うが)。縦型リアテールが放つキャデラック・ブランドの威光は、まだまだ十分に強烈な感じである。

 ……。にもかかわらず、7年という早期撤退となった背景には、世の流れというかリーマンショッック以降の激変・GM再編があったことは間違いない。
 
 FFからFRへと約8割ガタを新開発し、かなりのコストをかけて製作された渾身のキャデラックだけあって、STSの真価はいまなお不変である。ちなみにこの時代までのキャデラックは、あくまでもアメ車ベースで国際化を目指していた時代。現代のキャデラックは、ライバルドイツ車を駆逐するために、アメリカを捨て国際化を目指した存在である。

 だかこそ、アメリカ的なキャデラックが好みの方であれば、最後のキャデラックとして大切にしてほしいと願うのである。

応接間と称された、旧時代のふかふかなシートの面影はなく、まるでドイツ車のような硬質なシートに生まれ変わっている。

■全長×全幅×全高:4995×1845×1455ミリ
■ホイールベース:2955ミリ
■車両重量:1840kg
■総排気量:4565cc
■エンジン:水冷V型8気筒DOHC
■最高出力:324/6400(ps/rpm)
■最大トルク:42.8/4400(kg-m/rpm)
■タイヤ F:235/50ZR18
     R:255/45ZR18

V8モデルはハイオク指定ということで、今の時代では大食いと言われる可能性もあるが、輝かしい歴史的な1台だけに、維持したいところだ。ちなみにV6モデルはレギュラー指定である。

縦長のテールライトに代表されるように直線的なモチーフも多用したデザインがSTSの持ち味。こちらの方が伝統的なキャディ風味が濃い。

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